●入試で大切な位置を占める選択肢問題

国語の入試では中学、高校、大学を問わず選択肢問題が多く出題されます。大学の共通テストはマークシートですので、全問が選択肢です。東京都立高校の入試では、漢字と二百字作文を除けば残りはすべて選択肢問題です。中学入試では、読解問題のおおよそ6割が選択肢だというデータもあります。

選択肢問題を正確に解いて得点につなげることなくして、合格はおぼつかないと言えます。そして記述問題に比べて解きやすそうに見える選択肢問題は、実は設問や問題文を正確に読まないことには正解にたどり着くことができません。

「なんとなく勘で解く」や「消去法で解いていく」などの解き方ではなく、正しい読解方法により確信を持って答えることを身につけていきたいものです。今回は、そのためにどうすればいいかを考察していきます。

●主観ではなく、客観的に読んで解く

国語の読解問題の基本となるもの、中心にあるものは問題文です。物語文ならば、主人公を中心としたストーリーがあります。論説文は、筆者が読書に伝えたいことがあって書かれたものです。主人公の心情の動きを捉えたり、筆者の意見は何かなどをつかんだりすることが大切であり、これらについて設問を通して読み解いていくことになるのです。

入試問題を解く際には、「あなたの考えを述べなさい」などの意見を聞く問題を除けば「私ならこう考える」という主観は不要です。あくまでも客観的に読むのです。筆者の視点で読むという練習が必要なのです。

さて入試問題では、まず問題文を読むことになります。入試問題はとても長文化しています。一読して完璧に理解することは困難です。それでも下記に留意して読み切ることがまず重要です。論説文ならば「この文章は何の話か」そして 「筆者のいいたいことはどのようなことか」に関して短文にまとめるつもりで読んでいきましょう。また、物語文ならば、誰が主人公なのか、周囲に誰がいるのか、主人公と周囲の関係はどうなるのかなど、大まかなストーリーをつかむことです。あくまでも客観的に読み切ることです。

●設問、問題文、選択肢の順序で読む

問題文を一読したら、次にじっくりと正確に設問を読み、問われていることを把握します。その後は、設問の解答に関わる部分を見つけ出し正解のヒントを探り出しましょう。「傍線部〇を読んで・・・」という問題ならば、まず傍線部を含む一文を読む、そして傍線部を含む段落をしっかりと読むのです。それでもヒントが見つからなければ前後の段落まで読んでみましょう。多くの問題のヒントはこのなかに含まれています。

この手順を踏むことによって、問題文の内容を正しく把握できるようになります。また、設問が問題文の内容の何を問うているのかが見えてくるのです。選択肢を先に読んでしまうと、それらを吟味することに時間を取られてしまい、肝心の問題文の内容、設問の趣旨がわかりにくくなってしまいます。結果として正解が遠のきます。

設問、問題文の順に読んでいくと、この時点でどのような内容が正解かが見えてきます。後は、選択肢のなかから正解を選ぶ作業に進むことになります。勘や主観でなく、消去法でもなく、ピンポイントで正解の選択肢が浮かび上がってきます。

(たしかに消去法を用いると解きやすい設問もありますが、まずはこのやり方で取り組んでいくことで国語の力がつきます。受験まで時間があるこの時期ですので、まずはこのやり方をおすすめします。)

選んだ選択肢が正解なのは問題文のここに根拠が書かれているからと、はっきりと理由が言えるようになることが大切です。とくに解き直しの際は、このことに留意するとよいでしょう。

正解の選択肢とともに、間違いの選択肢については、「アはここが本文と違う」「イは本文にない記述が書かれている」などと根拠が言えるようにすることです。来春に受験を控える方々も、まだ一年近く時間があります。ぜひともこのやり方で練習を重ねてほしいと考えます。「急がば回れ」です。

●実際の入試問題を解いてみる

東京都の中学入試においても、選択肢問題の比重は全体にとても高いものです。なかでも読解問題の多くが選択肢問題である海城中学校の入試問題を、ここでは取りあげます。本校は男子新御三家と言われる学校のひとつで、人気がある学校ですね。

令和3年度の大問2の問五をみてみましょう。この問題文は、「コロナ禍のおいて弱さを認めることにより生まれる関係」について述べたものの一節です。

問五
傍線部3「コロナ禍は、リーダーのあるべき姿を根本から変えたように思います」とあるが、それはどういうことか。次の中から適当なものを一つ選び、記号で答えなさい。

まずはこの設問の傍線部を正確に読みとります。問題の趣旨は、傍線部と同じ内容の選択肢を選びなさいということです。この傍線部の要点は、「コロナ禍がリーダーのあるべき姿を変えた」ということです。ですので、コロナ禍によりリーダーのあるべき姿が何から何に変わったのかを、本文からまず読み取ることが求められます。

傍線部の次の行に

これまでは「強い」リーダーが発言力を高めていました。

という記述があります。これは今までのリーダーのあるべき姿と言えるでしょう。さらにこれから求められるリーダー像の記述を見つければ、傍線部の内容(求められるリーダーが何から何に変わったか)がわかったことになります。これはすぐ次の段落に解答が見つかりました。

しかし、これからは、いたずらに「強がる」リーダーではなく、真の意味で「弱さ」を
受け入れることのできる「弱い」リーダーこそが、人々と深いところでつながるのではないかと思うのです。

上記の引用箇所から傍線部の内容がはっきりとわかりました。つまり、強いリーダーから人々と深いところでつながることのできる弱いリーダーへと、求められるものが変わったということです。あとはこれと同じ内容の選択肢を選べばいいのです。

この問題では選択肢が5つあります。不正解のものは省略しますが、正解は次の選択肢アです。

ア 
コロナ禍によって、リーダーにふさわしい人は、自分の強さを誇示して人々を一方的に引っ張る人ではなく、自分の心の中にある弱さを進んでみせることで連帯を実現しようとする人になったということ。

この選択肢では、強い人ではなく弱い人がリーダーにふさわしい人になったと記されており、傍線部の内容と合致します。また、選択肢のなかの「連帯を実現しようとする人」は、問題文の”「弱い」リーダーこそが、人々と深いところでつながる”と同じ意味であり、言い換えと考えられます。「つながり」と「連帯」に注目するとよいでしょう。

●選択肢問題は実力がないと解けない

さて、首都圏の中学入試問題では記述問題中心の学校も多いのが現状です。例えば鷗友学園女子中学校では漢字以外はすべて記述問題です。麻布中学校は記述問題中心の出題が続いています。当然のことながら、これらの学校では記述問題の対策は大切です。ただし、問題文を正確に読んで答えるという点では、記述問題も選択肢問題も変わりありません。

麻布中学校では、記述問題に加えて3問程度の選択肢問題が出題されます。これらの問題は正確な文章理解ができていないと正解できません。配点が少ないとは言え、ここで失点するようでは合格が遠くなると言わざるを得ません。記述問題対策だけでなく、選択肢問題の対策も同じように重視すべきであると考えます。

むしろ記述と異なり部分点のない選択肢問題を確実に正解できる学力は、合格には必要不可欠なのです。また、この力がないと記述問題でも高得点をとることは困難です。

選択肢問題が解けるかどうかは合格を左右します。勘ではない、主観ではない、消去したら残ったからこれで正しいだろうではない、確かな読解力を育むことを大切にしていただきたいと考えます。

設問の指示通りに答えることや答えが一つしかないものを学ぶことを、子供の将来を見据えたときに否定的に捉える考えもあるでしょう。私はそうは思いません。社会に出たときに相手の意図を正確に理解することが、とても大切だと思うからです。決して無駄なことではありません。