●社会で求められる知識とは

中学入試の社会の問題については、どのようなイメージをお持ちでしょうか。もしかすると、暗記科目だから知識を問う問題が大半だという方もいらっしゃるかもしれません。
また、難関校になればなるほど、相当細かい知識を問われる、場合によっては重箱の隅をつつく問題が多いのではないかと考えられる方も多いかもしれません。確かにこれらは、一定程度は事実であることは否めません。ただし、学校によって求められる知識は異なっています。

例えば、学校の所在地や創立者に関係する問題が必ず出題される私立校があります。この知識は一般的には不要ではないかと思われるかもしれません。しかし、私学がその学校で学ぶにふさわしい生徒を求めていることを考えれば、こうした問題が出題されることも不思議ではありません。例えば創立者が日本の歴史にどう関わったかの知識は、その学校で学ぶ生徒には必要不可欠なものに思いますし、毎日通うことになる学校周辺の地理や歴史は知っておくべきでしょう。また、特別に詳しい知識を問う学校もあります。中学受験でというよりも、一般常識でもここまでは要らないと思われる知識(地名など)を問う学校もあります。これらの学校に合格したい、通いたいというお子さんは、こうした特別の知識を得るしかありません。そのためには、しっかり過去問に取り組むことです。そうすれば出題の傾向がわかり、対策が取れることになります。

●知識と知識を組み合わせる

これらのケースは別として、最近の中学入試ではどのような力が社会で求められるかを考えてみます。一般的には、上述の学校のようなケースを除けば、知識自体は、一般的な中学入試用の教材をマスターしておけば対応できます。ただし、都道府県の県庁所在地を答えたり、有名な事件がどの時代の出来事かを答えたりするような、ストレートに知識を問う問題だけが出題されるわけではありません。これらの問題が出題されたら、必ず全問正解しなければ合格は困難でしょう。差がつくのは、知識と知識を組み合わせて考えなければ解けない問題や、統計資料を読み取る問題などです。これらの問題では、知識を関連づける思考力が問われます。とりわけ、難関校においては、この傾向が顕著です。実際の問題例を見てみましょう。

人気の難関校のひとつである、慶応義塾普通部の問題(2019年度)からの抜粋です。

国内43県のうち、面積が広島県より狭く、岡山県より広い県は5つあり、これをア~オ県とします。ア~オ県は広い順に並んでいるとは限りません。資料1は、ア~オ県の人口を表したグラフです。資料2は、各県の県庁所在地の特色です。資料3は、各県の海岸線の一部について県の面積が広い順に並べた地図です。資料1~3を見て、あとの問いに答えなさい。


資料1 各県の人口・・・(注)このグラフは、縦軸が「県庁所在地の人口」、横軸が「県の人口」です。


資料2 各県の県庁所在地の特色(ア~オ県の順に並んでいるとは限りません)
・市内にある有名な城や公園には、市営の路面電車を利用して行くことができる。
・毎年8月上旬にこの市で開催される七夕祭りには、全国から多くの観光客が訪れる。
・冬でも温暖な気候であり、プロスポーツのキャンプ地として利用されることが多い。
・古い歴史を持ち、「枕草子」に名前が記されている有馬温泉はこの市の北部にある。
・羽衣伝説で知られる三保の松原は、世界文化遺産の構成資産として登録されている。


資料3 各県の海岸線の一部(地図1~5の縮尺は同じで、方位は上が北です。一部の島は省略してあります。)
(注)地図1は、淡路島北部と本州の地図です。
  地図2は、御前崎を中心にした地図です。
  地図3は、串本周辺の地図です。
  地図4は、天草と八代海を中心にした地図です。 
  地図5は、牡鹿半島の地図です。
(問)
1 ア~オ県を面積が広い順に並べて、記号で答えなさい。また、それぞれの県名を漢字で書きなさい。


2 ア~オ県の県庁所在地のうち、その名前が県名と異なるものをすべて漢字で書きなさい。


3 ア~オ県のうち、平成になってから昨年までのあいだに起きた大地震の際に、県内で震度7が観測され、甚大な被害に見舞われた県を3つ選んで、地震が起きた順番に記号を並べなさい。

この問題の資料1~3に記されていること自体は、決して特別の知識を必要とはしません。 また、それぞれの資料のうち、それぞれ一つあいまいな知識があったとしても、他の資料から類推して正答にたどり着くことができます。ここで問われているのは、知識と知識を関連させ、類推していく思考力です。論理的思考力と言ってもいいでしょう。     

●問題を解いてみる

難関校ではこのような力が求められます。実際に解いてみましょう。以前社会を担当したある生徒は、最初、この問題に全く歯が立ちませんでした。問題文を読んで広島県より狭く、岡山県より広い5県を、その順位も含めて暗記していないと解答できないとさえ思ったそうです。その必要はありません。しっかりと筋道を立てて考えれば、一般的な知識で必ずできるようになる問題なのです。

解き方はいろいろあるのですが、ポイントは知識を関連づけることです。資料1だけでは、見当がつきません。そこでまず資料2,3からこれらの県がどこなのかを類推していく作業に入ります。資料2、3ともに普通に学んでいれば既習事項のはずです。ただ、資料2ではア~オの順には県が並んでいません。また、資料3には、大きなヒントが隠されています。地図が面積の多い順に並んでいます。これらの情報を、一度頭のなかで整理する作業が大切です。資料2と3を関連づければ、5つの県とその面積の順番がわかります。

(面積の大きい順に)兵庫県→静岡県→宮﨑県→熊本県→宮城県

ここまでわかれば、資料1から問1の解答の類推が可能です。県の人口が一番多く県庁所在地の人口も一番多い県がグラフではオであり、兵庫県であることがわかります。一番県庁所在地の人口が少ないのが宮﨑県で、グラフではアです。

残りの3県はやや難しいかもしれません。どの県の県庁所在地も、政令指定都市です。県庁所在地の人口が唯一100万人を超えていることに注目すればウが宮城県であることがわかります。後は静岡と熊本ですが、東海工業地域があり、もう一つの政令指定都市である浜松市のある静岡県の人口の多さに着目すれば、エが静岡県で、イが熊本県であることがわかります。

このように既習の知識を関連づけていけば必ず解答にたどり着くわけです。当然、問題文を正確に読み、筋道立てて考えていく論理的思考力を駆使することになります。問の1ができれば問の2,3も容易です。問の3は、時事問題としては標準的なもので、このくらいは教養として知っておいてほしいという出題意図が感じられます。なお、問の3は、問題自体が大きなヒントになっています。5県のうち3県は、平成になってから起きた大地震の被災地を探すことになります。

(解答)
1 オ・兵庫県→エ・静岡県→ア・宮﨑県→イ・熊本県→ウ・宮城県
2 神戸市・仙台市
3 オ→ウ→イ

●どのように社会を学ぶか

さて、このような問題を解答できるようになるための学習方法はどのようなものでしょうか。今回のような地理の場合、学習の時、必ず地図帳で位置を確認する習慣をつけておきましょう。こうすることで自然に自分の頭のなかに日本地図が出来上がってきます。そして、都道府県毎や地方毎の白地図を自分で作り、必要な事項を書き出していくことをおすすめします。こうすることで、試験に必要な知識が定着していきます。

そして、何よりも、このような統計資料や地図などを用いた試験問題に親しんでいってほしいと考えます。市販の問題集にはいいものがたくさん発行されています。できれば書店で手に取って比べてみてください。問題を解くときには、しっかりと正確に問題文を読んで、解答に何が求められているのかを理解することが大切です。問題文のなかにヒントがあることもあります。このあたりは、国語の勉強とも共通すると思います。全ての教科が関連しているという意識で学び、いっそう力をつけていきましょう。歴史や公民については、いずれ改めて記そうと思います。