●何事にも一生懸命に

今回は、四谷にある雙葉中学校の入試問題を研究していきます。ご承知の通り、本校は、
東京の女子御三家として知られる名門です。この学校の特色は、学校紹介に記されている校長先生のご挨拶に集約されるように、私は感じました。以下、引用します。

明治42年(1909年)に設立された雙葉高等女学校は、戦後の教育改革により雙葉中学校・雙葉高等学校となりました。カトリックの精神に基づく全人教育を教育方針に掲げております。

学校生活の柱となっているのは、「一人ひとりを大切にすること」です。まず、かけがえのない存在である自分を大切にし、同様に家族や友人を尊重する、さらに、全ての人への思いやりを持つことができるようにと、教員一人ひとりが務めております。生徒がそれぞれの個性と才能を伸ばしていけるように、きめ細かく丁寧な教育を行っています。

本校の生徒たちは、何事にも実に一生懸命です。勉強やクラブ活動や様々な行事に、努力を惜しまず積極的に取り組む経験を日々積み重ねております。こうした中学高校時代を通じて、真の知性を養い、自ら考え自ら判断して行動し、その結果に責任を持つことのできる人に成長できるようにと願っております。

大学時代の知人に数名、本校の卒業生がいます。真摯な姿勢を持った真面目な学生だっという印象を、今でも持っています。真面目さとは決して融通が利かないものではなく、校長先生のおっしゃる一生懸命という意味においてです。この伝統は変わらず生き続けていることでしょう。

●高い水準の総合力が求められる国語

最初に、国語の研究を行っていきましょう。試験時間は50分、配点は100点です。本校の国語で合格点をとるには、他の女子校に比べてみても、とても高い学力が求められます。全体の成績が上位で、国語の得意な生徒が受験するといっていいでしょう。記述問題が多く、語彙も高い水準の知識が求められます。

例年、大問三題が出題されます。読解問題は、随筆文や物語文一題の年度もあれば、二題の年度もあります。いずれにしても読解問題の比重が高く、そのなかでも記述問題が多いことに特色があります。問題文の分量は4,500から6,500字程度、大学入試に匹敵する分量となっています。記述問題の他には、漢字の読み書き、ことわざ、敬語、文法など、多様な国語の知識を問う問題も出題されています。合格には総合的な国語力が必要です。
付け焼刃の学びでは通用しない一方、真面目に一生懸命に学んできた生徒ならば、合格点を取ることは十分に可能です。

●入試問題の考察

2020年度の問題では、大問一が論説文の読解問題です。出典は、武田邦彦の『二つの環境 ~いのちは続いている~』からの引用です。記述問題のなかから、解答欄の大きさからみて百字程度と、かなりの分量を求められる問十二を取りあげてみます。一見むずかしそうなのですが、筋道を立ててよく考え、考えたことを正しく文章にすれば正解となります。確認してみましょう。

問十二
傍線部⑫「環境はそうはいかない」といえるのはなぜか、説明しなさい。

最初にすべきこと、それは傍線部中の指示語である「そう」は何かを明らかにすることです。これは鉄則です。傍線部がふくまれる一文は、「生産の時代は生活の方法や技術までアメリカやヨーロッパに学べば良かったが、環境はそうもいかない。」です。指示語を言い換えると、「環境は、アメリカやヨーロッパに学べば良かったというようにはいかない。」ことだとわかります。

続いて、これはなぜか?を考えてみます。これもこの文の前文を読めばわかるのです。「世界でもめずらしい良い環境が与えられているのだから、日本の環境は日本人が考えなければならない。」とあります。ここまでを整理すると、「世界でもめずらしい良い環境が与えられているから、アメリカやヨーロッパに学ぶわけにはいかず、日本の環境は日本人が考えなければならない。」となります。ここまで書ければ、部分点は取れます。

続いて、解答をより具体的にしていく作業が必要です。「世界でもめずらしい良い環境」とは何かについての記述を探していきます。この文章では、傍線部を含む五段落を読むことで見つかります。「日本だけが北半球の温帯の大きな島国だ」、「寒さで凍死もしないし、暑さで焼け死にもしない」、「温帯に浮かんでいる島だから気候は良い」、「昔から安心して水が飲める」などの説明があります。これらをまとめた内容を加えることで、正解になります。

例えば、「日本は温帯の島国で気候が良く、寒さや暑さで命を落とすこともなく、安心して水が飲めるという世界でもめずらしい良い環境が与えられているので、アメリカやヨーロッパに学ぶのではなく、日本の環境は日本人自身が考えなければならないから。」などの解答が導き出されます。傍線部を最後とする五段落を正確に読みとり、表現することで正解となるわけです。文章中に正解があるのですから、それを見つけ出す練習を、そして記述する練習を繰り返すことで対応できるようになるはずです。

さて、本校で求められる国語力の一例として、言葉に関わる問題を一つ紹介します。これも2020年度の大問一からの出題です。

問六 
傍線部⑤「ニワトリが時をつくる」・⑥「それをしっけいする」とはどういうことか、それぞれ答えなさい。

⑤は、傍線部を含む一文に、「朝になると」とある。「朝、ニワトリ、時」からどういうことかをわからなければならないということです。常識を問う問題とも言えるでしょう。
「ニワトリが鳴いて知らせること」などと解答すれば正解です。
⑥は、それという指示語があるので、まずそれが何かを確認しますが、直前にある、「最近、柿の木が多くなったので」から、「最近多くなった柿の実」だとわかります。後は、「しっけいする」、すなわち「失敬する」がここでは「ぬすむこと」を意味することがわかればいいわけです。「最近多くなった柿の実を、持ち主に黙って取ってしまうこと。」などの正解となります。問六は、常識や言葉の知識が求められる問題でした。

続いて、同年度の大問一から、「あなた」の考えを問う問題を紹介します。本文の内容をもとにしながら、自分の考えを記すことが求められます。2019年度も同様の出題があります。本校としては新しい傾向の問題ですが、今後もこのような問題が続く可能性があります。準備はしておいたほうが良いでしょう。

問十八
この文章は、二〇〇二年に出版された本から引用しています。それから十八年たった現在の環境について、あなだはどう思いますか。具体例を挙げて、一〇〇字以上一二〇字以内で述べなさい(句読点も一字と数えます)。

最後に、漢字問題を一題ご覧いただきます。2017年の問題です。この問題のように漢字の読み書きができるかを問うだけではない、高い語彙力が試されます。

問一 漢字の多くは、複数の意味を持っています。
【例】にある「ショウブ」「フカ」を漢字に直すと「勝負」「負荷」となりますが、上の「負担」の「負」と同じ意味になるのは「負荷」の方です。
この例にならって、上にある傍線の漢字と同じ意味の字をふくむカタカナの語を選び、漢字に直しなさい。

(1)根治 カンチ チスイ

(2)計略 サクリャク ショウリャク 

(3) 過失 タイカ ケイカ

(4)敬服 ナイフク シンプク

<(5)~(8)は省略>

解答 (1)完治 (2)策略 (3)大過 (4)心服

●合格への対策

本校の問題、国語の総合力が問われます。ただし、難問や奇問はなく、確かな学力を時間をかけて養ってきた生徒ならば確実に合格点を取れるはずです。6割~7割の得点を目指していきましょう。

一番大切なのは、正しい読解力に裏打ちされた「記述力」であると考えます。本校の記述問題は、前述した「2020年度大問一の問十八」のような例外を除き、自分の意見を述べるタイプのものではありません。本文を正確に読んだうえで、言い換える、要約する、説明するというタイプのものが大半です。ですので、論理的に読むという読解法の基礎を押さえたうえで、記述の練習を繰り返すことが合格への近道です。本校の過去問をはじめるとする記述問題演習に加えて、文章を百字程度に要約する練習などを通じて記述力を養っておきましょう。実際の問題では、百字程度の記述が目安となるものが多く出題されています。

なお、文法的な正確さも求められます。助詞、助動詞の用法や副詞の呼応なども確実に定着させる必要があります。加えて、語彙力です。漢字の書き取りなどで直接この力を問われるだけでなく、読解問題にも語彙力を試す問題が多く出題されます。記述問題においても、言い換えが求められる時などに、豊富な語彙力が求められます。

これらの力は、当然のことながら一朝一夕で身につくものではありません。ふだんから国語の勉強に真摯に取り組むこと、一生懸命学習して力を高めておくことが肝要です。文章を読んでいてわからない言葉がでてきたら、辞典で調べてノートに記すなど、地道な努力の繰り返しが必ず実を結ぶはずです。

冒頭に記した校長先生のご挨拶のなかに、「本校の生徒たちは、何事にも実に一生懸命です。」とあります。こういう生徒を本校では求めているのではないでしょうか、そんな風に私は思います。次回は、社会を取りあげます。