●明確な学習方針

今回は、難関男子校の一つである、駒場東邦中学校の入試問題を研究します。本校は、1957(昭和32)年の設立ですので、歴史自体はさほど長くありません。この学校は、その名称でわかるように学校法人東邦大学が設置した学校です。ホームページには、学習方針が次のように記されていました。

本校の学習方針は、すべての教科で、「自分で考え、答えを出す」習慣をつけること、そして早い時期に「文・理」に偏ることをせず各教科でバランスの取れた能力を身につけることを第一にあげています。

さすがに名門ならではの方針だと感じます。大学時代の友人に本校の卒業生がいました。しっかりと自分の意見を持ち、行動していた学生だったと記憶しています。国語と社会では、どのようなことが書かれているでしょうか。

国語
国語力は全ての学力の基礎になるという考えのもと、難関大入試に対応するだけでなく、大学での研究や将来の仕事にもつながる高度な思考力・表現力を養います。
(後略)
社会
社会の一員として人生を大切に歩んで行くための備えとして、社会事象への関心を深め、認識を掘り下げるための基礎を習得することは、中高時期における重要な課題の一つです。
(後略)

この方針には、私は大いに賛同します。大学入試の先を見据えているからです。これらの教育方針からは、設立当時の「青少年に明るい夢を持たせよう」という思いまでが伝わってくるように思います。まずは、国語の入試問題を見ていきましょう。

●大問ひとつで実力を測る国語の問題

本校の試験問題は4教科合計で400点、そのうち国語と算数は120点ずつの配点です。算数とともに、本校の合否を決める教科であることは間違いありません。さて本校では、毎年大問が一つ、物語文が出題されています。問題は1題ですが、相当に高い学力が求められる難しい問題です。とは言え、いわゆる難問・奇問ではありません。確かな学力が求めれられる良問だと、私は思います。

題材は物語文ですので、事態・状況の変化、それに伴う心情の変化を正確に読み取る力が求められます。とりわけ主人公の心情表現、主人公を取り巻く人間関係の変化を正確に読みとることです。これは筋道を立てて論理的に読み解いていく力を育成していく正攻法の学習を地道に繰り返していくことで対応できるはずです。具体的に問題を見ていきましょう。

問題文はおおむね7,000字以上、中学入試の分量としては相当多い方です。問題は、中学受験には頻出である友人や家族などをテーマとし、主人公が受験生と同世代であるケースが多く、感情移入はしやすいと言ってよいでしょう。近年は、小問が13問出題されています。問1、問2は漢字の書き取りと語彙の問題です。ここは確実に得点しておかないと合格はおぼつかないでしょう。これらの問題は文脈のなかで出題されていますので、文脈をつかみ、同訓異字に気を配る必要があります。問3以降は、記述問題、選択肢問題、書き抜きの問題となります。記述問題は字数制限のあるものが5題程度出題されます。字数制限は40字、60字など様々ですが、100字前後の要約も必ず出題されています。記述問題の成否は、勝負の分かれ目になることでしょう。

2018年度の問題を例にして、実際の問題を見ていくことにします。出典は、ねじめ正一さんの「むーさんの自転車」です。父が高利貸から借金をしたことが原因で私(正雄)の両親が離婚し、むーさんという知り合いの実家で暮らしはじめる場面が中心です。

●正確な読解が大切

問1、問2は漢字や語彙の問題ですが、文脈からの判断も必要です。やや難しい問題と言って良いでしょう。普段からの地道な学習が必須です。問1から一部を抜粋します。

ゲンさん(松野屋の和菓子職人)もその日から、来なくなった。
「ゲンさん、①めたの?」 解答 辞


「・・・・・・伯母さんのスーパー手伝ってても、とっても気詰まりで、伯母さんも年だから⑪ジッケンもないし・・・・・・」 解答 実権

続いて選択肢問題を見ていきます。これも、文脈を正確に読むことで確実に正答ができるものです。

問5 -線部②「そんなことより、本当に中退してもいいのか」(37ページ)とありますが、なぜむーさんはこのように言ったのですか。その説明として最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
ア 中卒で社会に出て働く中で多くの挫折を味わい尽くしてきたため、正雄につらい思 いをさせたくなかったから。


イ 学校生活が楽しくないとはいえ、軽々しく中退ということばを口にしてしまう正雄に
説教しようと思ったから。


ウ 自分のことを慕ってくれるのは良いが、甘いことばっかり言っている正雄に世間の厳しさを教えようとしたから。


エ 自転車のことに話題をそらそうとする正雄に、まずは学校生活を充実させるために努 力してほしかったから。


オ 自転車のことに気を取られる正雄に、話題を高校中退の件に戻してどこまで本気なのか確かめようとしたから。

この問題では、登場人物のセリフに注目し、心情を把握しておくことがまず必要になります。むうさんは、私に安易に高校を中退してほしくないという気持ちがあることを踏まえておきます。

「オレは中卒だけど、高校ぐらいは出た方がいいと思うけどな」
「~マー坊、学校はちゃんと行けよ。行くんだぞ。いいな。」

続いて、むーさんの「そんなことより、本当に中退してもいいのか」につながる会話を整理しておきます。私のセリフを追うことで経緯がわかります。中退の話から自転車の話に話題が変わっています。

「中退して、働くよ」
(中略)
「むーさんの自転車気持ちいい」
(むーさんの自転車とは長い付き合いだという答えに対して)
「どのぐらいの付き合いになるの」

この後、むーさんがそんなこと(=自転車の話題)よりも本当に中退してもいいのかと言っています。私に高校中退をしてほしくないむーさんは、話題をもどすためにあえてこう話したということがわかります。

さて、この問題では、設問の選択肢にもヒントがあります。それぞれの文末に注目して設問とつなげてみると、むーさんの「そんなことより、本当に・・・」の発言に意味が通じるのは、の「話題を高校中退の件にもどしてどこまで本気なのかを確かめようとしたから、本当に中退してもいいのかと言った。」のみです。本文の状況の変化を把握すること、設問の趣旨を正確に理解することで、確実に正答できるわけです。試験時間は60分、ここで記述問題も含め、多種多様の問に答える必要があるわけですから、決して易しくはありません。ただし、語彙力を蓄え、正しい読解方法を身につけることで合格できる実力をつけることは十分に可能です。次回は、記述問題を確認していくことにします。