●進学校として

前回に引き続き、駒場東邦中学校の入試問題研究を行います。はじめに都内屈指の進学校である本校の進学実績を確かめてみましょう。ホームページによれば、令和2年度は、東京大学に63名が合格しています。うち現役生は46名です。本校の募集人数は240名ですので、おおよそ四人に一人は東京大学に合格していることになります。また、国立大学には133名が合格しています。なお、医学部歯学部の合格人数が延べ78名です。医歯系にも強いのが特色と言えるでしょう。私立大学にも早慶をはじめとする一流校へ多くの進学実績をあげています。ちなみに日能研の2021年予想偏差値によれば63であり、難関であることに間違いありません。

●国語の記述問題の研究

前回のブログにも記した通り、例年4~5題出題され、字数指定も百字程度のものまである記述問題は、本校合格のための鍵であると考えられます。きちんとした対策を立てて準備をしておかなければなりません。ただし決して難攻不落の問題ではありません。確実に力をつけていれば必ず合格点に達することができます。前回と同じく、2018年度の入試問題を見ていくことにします。

問12 傍線部⑧「今の僕に一番ぴったりだと思ったのが、寒き夜や我身をわれが不寝番」
とありますが、正雄はなぜ「ぴったり」と思ったのですか。「寒き夜や我身をわれが不寝番」の句の内容もふまえて一〇〇字以上一二〇字以内で説明しなさい。

この状況を簡単に説明します。この句の作者である小林一茶は、十五歳で親元を離れ奉公に出ています。また、主人公の「私」も親と縁を切って、一人で生きていこうとしています。そして、一茶と同じように自分も頑張らねばならないという気持ちでいます。問題文から一部を引用します。

~一茶は継母と仲が悪くて、十五歳の時、父親が江戸に奉公に出したと、むーさんから聞いたことがある。十五歳なら私と大して変わらない年齢だ。親に追い払われたことも似ている。
(中略)
(注:以下は、正雄とむーさんの会話)

「今の僕に一番ぴったりだと思ったのが、寒き夜や我身をわれが不寝番」 「マー坊、なかなかいいセンスしてるじゃないか」
「きのう、むーさんに言われた将来のこと、気合を入れて考えないとダメだね」~

それでは、設問に戻ります。設問は、なぜ「ぴったり」と思ったのですかというものです。これは、「一茶の俳句」と「正雄の今の気持ち」に共通点があるということです。ですので、どの点が共通しているのかを記す必要があります。すなわち、
「一茶の俳句」と「正雄の今の気持ち」は、○○な点で共通している。
と書くことが求められます。また、設問には、「寒き夜や我身をわれが不寝番」の句の内容もふまえてとありますので、一茶の俳句がどのような内容なのか記さなければなりません。この設問は、正雄の気持ちを問うものですので、当然のことながら、一茶の句、政雄の気持ちそれぞれがどのようなもので、どこに共通点があるのかを明記することで正解となります。ですから、

□□である「一茶の俳句」と△△である「正雄の今の気持ち」は、○○な点で共通している。

などの解答が求められます。

さて、一茶の句は、寒い夜に自分自身を見つめなおしている情景です。「我身をわれが不寝番」は、ほかに自分の周りに誰もいない=孤独だということを表しています。また、正雄は、親と縁を切り、一人で生きていくことを考えています。ここに孤独であるという共通点が見いだせます。また、「きのう、むーさんに言われた~」にあるように、一茶が孤独に耐えて頑張っている姿にならい、正雄は自分自身もこの状況を肯定的にとらえ、前進しようとしています。これらを踏まえて、書くべきことをまとめ、不要なことは削除するという要約の作業を通して解答をつくることになります。次のような解答例が導き出されます。

<解答例>

寒い夜に一晩中自分で自分自身のことを見つめなおしている小林一茶の俳句と、親元を離れ、自分の将来を真剣に考えて夜も眠れないでいる自分の状況が、孤独に耐えつつも、一歩前に踏み出そうとしている点で似ているから。

文字数に指定もあり、どのように手をつけていいかわからない問題に見えるかもしれません。問題文と設問をよく読み、求められている解答を理解できれば決して解答困難な問題ではありません。もう一問、同年度の問題を取りあげます。これも決して難攻不落ではありません。

問10 傍線部⑦「私が父と母を捨てたのだ」とありますが、正雄はなぜこのように

思ったのですか、九十字以内で説明しなさい。、

なぜこのように思ったのかの理由を説明する問題ですので、状況とともに変わる正雄の気持ちを問題文から追っていきます。

漠然とだけど、私が大人になって自立できるようになったら、母と一緒に暮らせると思っていた。
(中略)
母は一年も経たないのに、私に相談もなく、ブライドも意地も捨てて、また父と暮らすことを決めた。
(中略)
私は母から捨てられたのだ。
(中略)
私がいなくても、母は父と二人で暮らしたいのだ。そう思ったら、却って気持ちが落ち着いて、涙も止まった。
(中略)
~ずっと私を支えてくれたのが、むーさんだ。今も支えてくれている。
父と母が私を捨てたのではなく、私が父と母を捨てたのだ。
廊下に下りて行き、まずは謝ろうと。「むーさん、さっきは・・・・・・」~

さて、引用部の最後から二つ目の一文、これも大きなヒントです。この問題では、この一文の一部に傍線が引かれています。この場合、傍線が引かれていない部分に重要な手がかりがあるのです。この場合、「父と母が私を捨てたのではなく」です。

母に捨てられたことへの怒りから冷静さを取り戻していく過程を追うことができれば、
書くべき内容は明確になります。後は、九十字に要約するのみです。

<解答例>


母が相談もなく父と暮らすことを決めて、捨てられたと激怒したが、逆に私が捨てたと思うことで気持ちを落ち着け、自分を支えてくれているむーさんといっしょにいると決意したから。

●求められるのは、論理的思考力と要約する力

本校の入試問題には、上記のような記述問題が四~五問出題されます。問題文は例年物語文です。各々の場面がどのような事態、状況なのかを理解すること、主人公を中心とする人間関係の変化、心情の変化を正しく把握することがまず重要です。推測ではなく、正しく理解するということです。そして相手にわかるようにそれを伝えるということが大切です。一言でいえば、論理的思考力が必要だということです。

本文、設問などの与えられた情報のなかから、書くべきこと重要なことを抽出して記述する「要約力」が必要とされます。とりわけ、本校の問題は、物語文が出題されるのが通例です。簡潔で的確な心情表現に言い換えることを心がけてほしいと考えます。たとえば、
今回の問題文にも、次のような文章があります。

むーさんに話したら気持ちがスッとして、体の震えも止まった。

「安心して、落ち着いた」などと表現できるといいでしょう。

さっきまで真っ白だった頭の中に、血液がようやく流れ始めてきた。

「冷静さを取り戻した」ということです。論理的思考力や要約力は、本校の国語対策として必要なだけではありません。当然、中学、高校、大学に進むにつれ必要な力ですし、社会に出てからも大切な力であることは、いうまでもありません。

次回は、社会の問題を取りあげます。