●語彙力は国語の基本

語彙力を高めておくこと、これは、国語で求められる力のなかでも、基礎基本といえるものです。読解力や記述力は当然大切ですが、言葉を知らないことには問題文を読むことはできませんし、文章を書くこともできません。このブログでも、今まで何度かことわざ、四字熟語などを取りあげてきました。これからも、折々でこの語彙力について取りあげていくことにします。このブログの読者は、受験生や保護者の方々ですので、受験で求められる語彙力を中心に話を進めていきます。受験生はふだんは普通に会話をして生活しています。ですからふだんの生活に必要な語彙力はあります。しかし受験にはそれ以上の語彙力が求められます。

たとえば 「おもむろに席を立つ」というときの「おもむろに」、このことばの正しい意味は、[しずかに、ゆっくりと」です。これを「突然に」あるいは「不意に」の意味だと思っている人も多いようです。日常生活でこの「おもむろに」を使う場面が、あまりないせいかもしれません。しかし、この「おもむろに」は、受験では頻出のことばのひとつです。生徒を受け入れる側の学校としては、日常生活においてどのくらい豊かな語彙に満ちた生活をしているのか、ふだんから本や新聞などで、どの程度語彙力をつけてきたのかを確かめたいのでしょう。

そして高い語彙力を持つ生徒を欲しがるということは当然のことのように思えます。語彙力が高いということは、多くのことばを扱うことができるということです。知っていることばが多ければ多いほど、多彩で豊かな表現ができます。これから学校に入りさまざまな学びを進めるうえで、大切な力なのです。

●入試問題で求められる力

さて、語彙力をどうつけていくかの話の前に、実際の入試問題を一題見てみましょう。
2020年度 聖光学院中学校の問題です。

大問二
例にならって、次の①~⑤の□にあてはまる言葉をひらがなで答えなさい。ただし、□には[]内の文字数のひらがなが入るものとします。

例 この映画は、現代社会に一石を□ものだ。[四] <答>とうじる

①思ってもみなかったことで褒められた彼は、□につつまれたような顔をしていた。[三]
②援助は惜しまないと言われたことを□に取って、次々に要求を出した。[二]
③この大学の出身者で、オリンピックのメダルを獲得した人物は、五指に□。[三]
④三日もあれば夏休みの宿題を終わらせられると、友達の前で大見得を□。[二]
⑤運動神経がよい彼は、中学に入学すると、いろんな運動部から引く手□だった。[三]

解答①きつね②たて③あまる④きる⑤あまた

この問題で使われていることばは、多くの受験生にとっては、ふだんの生活では使わないことばではないでしょうか。家庭や学校という社会において、これらのことばをふだんから使う、すなわち、話したり聞いたりする環境にあるお子さんは少ないと思います。そういう状況ならば、これらのことばにあえて触れる機会を作る必要があるのです。

まず考えられるのは、市販されている語彙力をつける教材を使うことです。これは確かに即効性があると考えられます。とりわけ受験間近ならば、特に受験によく出そうなことばを中心にして、効率よく学ぶことができます。これに加えて、ふだんの生活のなかでも語彙力を高める手段はたくさんあります。これについて考えてみます。

●ふだんの生活で語彙力を養う

まず、最初に思い浮かぶのは読書でしょう。ふだんの生活で実際に経験できることは限られています。しかし、読書をすることで、未知の世界や考え方にふれることができます。そして、自然に語彙も増えていきます。小説を読むのが嫌いで、読書をあまりしたことがないというお子さんもいることでしょう。自分の関心あるテーマの本を読めばいいのです。たとえば、スポーツ、楽器、将棋や釣りなどの趣味、なんでもいいのです。文字の多い本が苦痛ならば、最初は漫画であってもいいでしょう。好きなテーマならば楽しく読めるはずです。自然に語彙が増えていくことでしょう。少しずつ、テーマを広げていけば、なお良いと思います。

読書に限らず、小学生向けの新聞を読んだり、ニュースやドキュメンタリーを見たりすることもいいことです。テレビのドキュメンタリーには、良質のものがたくさんあります。録画して家族で一緒に見るのがおすすめです。感想や意見を交わすことが大切です。仮にお子さんが間違っていると思われる意見を言った時も、一度は受け止めたいものです。「それは、ちがうよ。」ではなく、「いいところに気がついたね。」が大事です。

なお、このような日常の学びでは、わからないことばが出てきたら、辞書を引いて調べることを習慣づけることが大切です。いちいち調べるのは面倒くさいと思われるかもしれません。でも、ここで一度しっかり調べておけば、次に同じことばが出てきたとき、すらすらと読めることになるのです。これが語彙力がつくということです。たまには、お子さんと一緒に辞書を引いてみることも大切です。ことばの意味がわかったら用例を示してあげるなどすれば、いっそうそのことばがお子さんのなかで定着するはずです。

なお、中学受験を目指す小学生は、中高生向けの辞書を用意したほうがいいでしょう。小学生向けは、収録語数が少ないため、少し難しいことばが掲載されていないことがあります。

語彙力をつけることは、国語の基礎基本です。そして普段の生活で、これを鍛える機会はたくさんあります。それぞれ工夫して、様々な学びの機会をもつようにしていきましょう。

今日とりあげた入試問題は、語彙単体の問題でした。ことばの知識は、当然のことながら、読解問題においてもとても大切です。これについては、次回以降に取りあげていくことにします。