●本校の沿革

今回から二回にわたり、早稲田中学校の入試問題研究を行います。本年創立125年を迎えた歴史ある学校です。本校は、現在は早稲田大学の系属校ですが、卒業生のほとんどが早稲田大学に進む早稲田大学高等学院、同様に慶應義塾大学に進む慶應普通部や中等部などとは、その沿革や性格が大きく異なります。

まず、その創立の経緯を本校ホームページより引用します。

1895(明治28)年11月、大隈重信の教育理念に基づいて、坪内逍遥、市島謙吉、金子馬治を中心に、本校は創立されました。とくに坪内逍遥は創立後の10年間文芸の筆を絶って本校の精神的形成に邁進し、大きな影響を遺しました。1882年、大隈重信によって創立された早稲田大学の建学の精神<学問の独立>に対し、本校は<人格の独立>を主張しています。自ら信じ自ら恃む自立心を生徒に要求し、「逆境に処して益々雄壮」な人間の育成を理想とするものですが、それは大隈重信の人格の根本でもありました。

ちなみに校名に「早稲田」を冠したのは、本校が早稲田大学よりも先とのことです。
本校は創立以来上級学校への進学を目的とするなど、創立者を同じにしながらも早稲田大学とは異なる歴史を歩みますが、1979年4月から早稲田大学の系属校となります。ただし、早稲田大学への推薦入学定員は定員の約半数であり、現在も国公立大学をはじめとする他大学への進学者の多い進学校としての性格が強い学校です。以下も、ホームページからの引用です。

創立者を同じくする大学と中学・高校が「早稲田」の紐帯を確固としたのですが、一方で独立した精神によって生徒が自ら志望するいかなる大学へも進学が可能であるような指導もなされています。これはまさに坪内逍遥が創立期において所期した姿勢でもありました。

●都内の最難関中学のひとつである本校

本校は現在、首都圏ではもっとも偏差値の高い男子校のひとつです。日能研では第一回の偏差値は65、第二回は68となっています。カリキュラムは、中1および中2の前期2年を「生活習慣と学習の基礎を固める時期」、中3および高1の中期2年を「実力養成時期」、高2および高3の後期2年を「応用力完成時期」としています。中高一貫教育のメリットを活かして、大学受験を念頭に置いた教育課程が組まれていると言ってよいでしょう。

なお、本校では、「人格の独立」を重視しています。どのような状況でも正しく行動し、逞しく生き抜いていけるようにとの願いが込められているそうです。カリキュラムや部活動、学校行事などは、すべてこの「人格の独立」を目標に組まれているとのことです。決して、大学進学だけを念頭に置いた学校ではないと考えてよいでしょう。

さて本校については、私はいくつかのイメージを持っています。長男が所属していた中高時代に所属した運動部は、よく本校と試合を行っていました。長男の学校のほうが、あの代は、少し強かった記憶があります(笑)。早稲田カラーのユニフォームが印象に残っています。同じ男子校の中高一貫校ゆえ、親近感を持った記憶があります。また大学時代の悪友はじめ、何名かの当校OBと知り合いです。いい意味での男子校育ちといいますか、今ではあまり使われない言葉でしょうが、彼らからはバンカラ気質を感じ取っています。もっとも当時は旧い校舎、また、偏差値も今ほどは高くなかった時代でした。ただ、今でもその自由闊達な雰囲気は残っているのではないかと推測しています。

なお、主な進学実績は、ホームページによれば次の通りです。まず早稲田大学への推薦ですが、2020年の卒業生306名のうち、164名が推薦進学をしています。続いて現浪を合わせた主要大学への進学者数をご紹介します。上記の推薦進学を含め、早稲田大学へは185名が進学しています。その他の私大では、慶應義塾大学に14名が進学しました。国公立では東京大学27名、京都大学5名、一橋大学5名、東京工業大学5名をはじめ、計77名が進学しています。都内でも屈指の進学校と言えるでしょう。さてこのブログは、本校の入試問題を研究することがテーマです。まずは社会から見ていくことにします。

●正確な知識が試される社会

本校の入試は200点満点で、国算は各60点、理社は各40点満点です。社会は、解答時間が30分です。大問3題で、3分野から1題ずつ、解答数は、40問前後です。選択問題や用語の記入問題が中心ですが、試験時間が30分であること、リード文や資料をよく読み解いて解答する必要があることから、正確な知識と速さが求められます。求められている知識自体は、基本的なものが中心です。ただし、「漢字で書く」、「正しいもの、あるいは誤ったものを選ぶ」など、問題に正確に答えることが、合否を分けると考えられます。なお、特別に長かったり、難しかったりする文章を読み解く問題が出題されるわけではありません。それでも本校を受験するからには、水準以上の読解力は当然求められます。焦らずに、しっかりと読めば恐れるに足りません。初見では戸惑いがちな設問であっても、落ち着いて解けば既存の知識で容易に解答できる問題が多く出題されています。

2018年第1回より
(大問1問10)
下線部⑧について、(Y)島(東経134.2度)と東京(東経139.8度)では、日の入り時刻は何分何秒違いますか。経度に基づいて計算して答えなさい。ただし、緯度や地形などは考えないものとします。

一見すると難しい問題に見えるかもしれません。ただし、ここで必要な知識は、「経度15度で1時間の時差がある。」ということのみです。経度の差は5.6度ですので、1時間を60分に直し、次のように計算するだけです。
60  × 5.6 ÷ 15 = 22.4分→22分24秒 
問題文を読む国語の力、計算する算数の力も当然必要です。本校に合格する受験生には、このような少しひねった問題にも対応する力が欲しいということがありそうです。

さて、本校の入試問題は、40点満点であり、問題数から見て、各問題が1点であることが推定されます。合格には7~8割は正解しておきたいところです。これから、過去の問題から二題を取りあげます。決して特別細かい知識までは求められていませんが、丸暗記学習では対応できない、社会の力を測るのにふさわしい問題です。

●知識を用い、考えて解答する

最初に2019年第一回試験の地理に関する大問から一題を取りあげます。この問題は、リード文として家族旅行記があり、それに問題が9題続きます。

問5 下線部⑤について、次の各問に答えなさい。
(1)
次の表は、新潟県、群馬県、兵庫県、大阪府、奈良県における観光レクリエーション施設数を示しています。新潟県、兵庫県をA~Eの中から1つずつ選び、記号で答えなさい。


府県/温泉地宿泊施設数・・・ゴルフ場数・・・スキー場数・・・海水浴場数

A/594・・・78・・・22・・・0

B/394 ・・・159・・・13・・・40

C/42・・・ 38・・・0・・・4

D/558 ・・・44・・・60・・・61

E/68・・・33・・・0・・・0

『データでみる県勢2018』より作成

(2)
日本には豊富な地熱資源があるにもかかわらず、地熱発電量が少ないことが知られています。その理由の1つに、温泉地の人々の反対がありますが、それ以外のおもな理由を説明した次の文の空らんを20字以内で埋めなさい。


地熱資源が豊富な地域の多くが(        )ため。

この問題は、既存の知識を用いて、それぞれの知識を結びつけながら考えることで正解することができます。(1)は、表から都道府県を選び出す問題です。表に多くのヒントがあります。海水浴場のない県は内陸県ですので、まずAとEは、新潟県、兵庫県ともに該当しません。残りの三つから選びます。スキー場の多さから、Dが新潟県であることはすぐにわかるでしょう。兵庫県は、BあるいはCですが、観光レクリエーション施設の多さ、また、スキー場に着目し、日本海に面していることを考慮すると、Bが兵庫という解答が導き出されます。この種の問題は、本校だけでなく多くの学校で出題されますし、模試などでも良く取りあげます。基本を押さえた後は、問題演習で慣れておく必要があります。問題のなかに必ずヒントが隠れています。
(2)
地域住民の反対以外に何があるのだろうと、焦ってはいけません。既習地域を駆使して考えることが大事です。地熱発電は、主に火山活動による地熱を用います。火山活動の盛んなところには温泉があるだけでなく、火山活動などが作り出した美しい自然景観があることを思い出してみることです。ここで自然景観と国立公園を結びつけることができれば正解に近づけます。国立公園内での開発は制限されます。そのため、地熱発電所の建設も制限されるわけです。地熱発電、火山活動、国立公園、これらは中学受験では必修の用語です。言葉を覚えておくだけでなく、知識を関連づけて考える習慣をつけることが大事なのです。

(解答)
(1) 新潟県  D  兵庫県  B
(2) 国立公園の中にあり、開発が制限されている

2018年第1回試験の大問3は、憲法に関する問題です。リード文に続いて出題されます。何問か取りあげてみます。

問1(A)にあてはまる言葉を10字前後で答えなさい。
(前略)
日本国憲法には、「国民の義務」として、「子ども(A)義務」「勤労の義務」「納税の義務」の3つが定められています。この3つは社会をつくりあげていくうえで欠かせないものです。
(後略)


問3 下線部②に関連した次の各問に答えなさい。
(1)(B)にあてはまる言葉を6字で答えなさい。
(注)下線部②=日本国憲法では、基本的人権は義務と引き換えに与えられるもの、という考えをとっていません。基本的人権はだれもが(B)にもつもの、という考えにもとづいているのです。


解答:問1 子どもに(に普通教育を受けさせる)義務
問3(1)生まれながら

いわゆる虫食い型の記述問題です。これは、憲法の学習を正確に身につけていれば容易に解答できます。本校の入試では、このような問題がよく出題されています。なお、本校では記述問題はさほど多く出題はされていません。

続いて、合否を分けると言える問題をいくつか紹介します。これらの問題を確実に解答できることで合格に近づきます。

問4 
下線部③に関連して、憲法には定められていなくても時代の変化とともに認められるようになった権利もあります。次の文の中で、そのような権利の例とは言えないものを
1つ選び、記号で答えなさい。


ア 有名な芸能人であっても、仕事以外の私生活をむやみにあばかれたりしない。


イ 個人の名前・住所・生年月日などの情報を勝手に知られたり、利用されたりしない。


ウ 障がいのある人でも安心して利用できるスポーツ施設の建設を市長に訴え、インターネットで署名を集めた。


エ 自宅のとなりに高いマンションが建つことになったが、十分な日当たりが確保されるよう、建設会社に申し入れた。

ア、イはプライバシーの権利、エは環境権のうちの日照権、いずれも新しい人権です。
ウの署名は請願権にもとづくものです。よって、解答はウです。ただし、国や公的機関への請願や陳情は直筆でなければなりませんので、インターネット署名は法的な拘束力は持ちません。これらの権利についての用語を知っていても、それが具体的にどのようなものなのかを理解していないと解答できません。丸暗記で学ぶのではなく、つねに実際の世の中ではどうなのかを意識した学びが重要です。

問5 

下線部④の例として、安心して子供を産み、育てることができるようにすることがあります。しかし、働く親が子どもを預ける施設が不足していることが問題になっています。親が申請してもこのような施設に入れない子どものことを何とよびますか。解答欄にあてはまる漢字2字を答えなさい。
解答欄:(    )児童 解答:待機

時事問題のテキストの内容をしっかりと頭に入れておくことが肝要です。知っていれば解ける問題です。

問6


憲法第99条には、なぜ「国民」が入っていないのでしょうか。下線部⑤を参考にして、その理由として正しいものを、次の文から1つ選び、記号で答えなさい。


注:(リード文より)ここで、義務を負う人々として「国民」は入っていませんが、(以下下線部⑤)それは憲法の目的や役割と深く関連しているのです。


ア 第99条にあげられた人々は法律をつくったり、行政や裁判を行うなど法律の知識が求められるので、まずそれらの人々が憲法をよく知る必要があるから。


イ 憲法は国や権力者の力を制限して個々の人権を保障するためにあるので、権力を行使する人々に憲法を守らせる必要があるから。


ウ 国民が政府に従わなければ社会が混乱してしまうので、国民が憲法を守る義務より、政府に従う義務のほうが重要だと考えられているから。


エ 憲法はあらゆる法律のいちばん上にあるのだから、国民がこれを守る義務を負うのは当然だと考えられるから。


解答:イ

立憲主義に関する出題です。憲法第99条は、「憲法によって権力の行き過ぎを防ぎ、国民の人権を守る」という立憲主義の立場を明確に表した条項です。憲法を尊重・擁護する義務を負うのは「天皇または摂政、国務大臣、国会議員、裁判官およびその他の公務員」
とされています。同様の問題は、他校でもよく出題されています。これは中学受験における必修の内容と言えます。

●地道に学ぶことが大切

本校の社会対策としては、まず中学受験用のテキストで、知識を正確に身につけておくことが大切です。加えて二学期以降の対策で構いませんが、時事問題のテキストも一通り学習して、近年の出来事や話題には対応できるようにしておくことです。本校では、知識そのものを問う一問一答式の問題はまず出題されません。資料や図表を読み取ったり、長めのリード文を読解したりする力を養っておきたいものです。テキストのマスターを前提条件として、問題集を用いた演習を繰り返すことをおすすめします。高度な記述問題はあまり出題されないと予想されます。得た知識と知識を組み合わせるトレーニングを問題演習を通じて行うことで、合格に必要な7~8割の得点が可能となると考えます。恐れることなく、地道に学習することが大切です。次回は、国語の問題を研究します。