●二百字作文とは

「二百字作文」が、長きにわたって東京都立高校の国語の入試問題に出題されています。
今回は、これへの対策について記していきます。この作文は、単体で出題されるのでなく、5つある大問のうち、四番目の論説文読解問題の最後の問題として出題されています。問は、「国語の授業でこの文章を読んだ後~」と始まります。

この入試問題、試験時間は50分、満点は100点です。このうちこの作文問題は10点の配点です。ウェイトが高いために、この問題への準備をしていくことは、合格への必須条件であると考えます。しかしながら、これへの対策は後回しになったり、ないがしろになったりしがちのようです。出題傾向を把握して、練習をしておけば決して恐いことはありません。これから高得点を取る方法を確認していくことにします。

●どのような問題なのか

実際の問題を見てみましょう。まず令和三年度の問題です。

(大問4 問5)
国語の授業でこの文章を読んだ後、「自分の『記憶の拠り所』となるもの」というテーマで自分の意見を発表することになった。このときにあなたが話す言葉を具体的な体験や見聞も含めて二百字以内で書け。なお、書き出しや改行の際の空欄、(、)や(。)や(「)などもそれぞれ字数に数えよ。

続いて令和二年度も見てみましょう。テーマ以外は、全く同じ問題です。

(大問4 問5)
国語の授業でこの文章を読んだ後、「理想の組織」というテーマで自分の意見を発表することになった。このときにあなたが話す言葉を具体的な体験や見聞も含めて二百字以内で書け。なお、書き出しや改行の際の空欄、(、)や(。)や(「)などもそれぞれ字数に数えよ。

これ以前も、ほぼ同様の問題が出題されてきました。

ところで、この作文問題では、正答例とともに、「採点のポイント」が公表されています。令和三年度の問題では、次のようになっています。これは、大きなヒントになります。

採点のポイント
○テーマ「自分の『記憶の拠り所』となるもの」に即した自分の意見、主張が適切に書かれている。
○本文中の筆者の主張を的確に捉え、その主張を踏まえて、文書が適切に書かれている。
○自分の意見、主張の根拠となる具体的な体験や見聞について、適切に書かれている。

※2020年度の問題も、「自分の『記憶の拠り所』となるもの」が「理想の組織」に変わる だけで、同じ採点のポイントとなっています。

正答例も確かめてみます。

(令和三年度)
 私にとっての記憶の拠り所となるものは、近くの図書館のいすと机です。幼いころは毎日通い、わくわくしながら本を読みました。あの読書体験が私の好奇心の原点です。今そのいすと机を見ると懐かしく思い出します。
 懐かしさは、自分を肯定し、気持ちが未来にひらかれる感情だと筆者は述べています。
私は、夢中で読書したころを振り返り、改めて自分の知的好奇心の原点を大切に思いながら、将来の夢に向かって努力しています。

(令和二年度)
 私が所属する生活委員会では、三年生を中心にしたグループを作って、役割を分担しています。月ごとに相談しながら、挨拶運動や下校点検など、そのときに必要な活動ができるよう、柔軟に分担や編成を決めています。
 筆者は、自律分散的に状況に対応する組織を理想としています。私は、個々が周囲と協力し補い合い、自分で考え行動できる組織が理想と考えます。私も自ら行動できる生活委員になれるよう努力していこうと思います。

正答例は、ともに二段落構成です。一段落では、「具体的な体験や見聞」が書かれています。二段落一文目が「筆者の主張」です。令和三年度は二文目と三文目、令和二年度は二文目が「自分の意見、主張」となっています。ほぼ同じ構成です。当然のことながら、採点のポイントを満たしています。

この正答例の構成をお手本にして、解答の「型」を作ってみると、次のようになりました。

二段落構成とする。
一段落では、
①体験や見聞を簡潔に記す。
②印象的だったことや自分の感情・感想を書く。
二段落では、
①筆者の意見を書く。
②筆者の意見をふまえて、自分の意見を書く。

実際の入試では、この「型」にはめて解答を作ることで、短時間で高得点が見込めると考えます。もちろん、「型」は上記以外でも構いません。ご自身の書きやすいものにしてもいいでしょう。ただし、「採点のポイント」を満たしたものでなくてはなりません。

●どのように解答すべきか

前段で示した「型」に基づいて、解答を作成する際の留意点を記していきます。まずは、一段落の「具体的な体験や見聞」です。これは文字通り、具体的に書くことが大切です。一つのできごとに絞ること、情景が読む人に伝わるように書くことが大切です。

例えば令和二年度の正答例では、単にグループと記さずに「三年生を中心としたグループ」と記したり、「挨拶運動や下校点検など」と加えたりすることによって、より具体的にイメージしやすくなっています。また、令和三年度には「幼いころは毎日通い、わくわくしながら~」とあります、解答者にとって印象的だったことが、はっきりとわかります。

さて、この「具体的な体験や見聞」ですが、必ずしも実際に経験したことである必要はありません。ここでは、受験生がどういう経験をし、どのように考えたかが問われているわけではありません。問われるのは、出題の条件に合った解答ができているかどうかです。

続いて二段落では、はじめに「筆者の意見(主張)」について記すことになります。ここでは、本文中から筆者の意見が書かれているところを見つけ出すことが必要です。本文は論説文ですから、必ず筆者の「いいたいこと」が書かれています。これを正確につかむことが肝要です。

令和三年度の問題文では、文中に何度も登場する「懐かしさ」がキーワードになっています。「懐かしさ」を筆者がどのように捉えているを記すことが求められます。次のような記述が見つかります。これを短くまとめると、正答例となるわけです。

懐かしさは、(中略)いまの自分の肉体、存在、歴史、居場所を肯定することができ、気持ちが未来にひらかれてゆく前向きで大切な感情と言われています。

「言われています」の表現からみると、一般的な意見ともとれますが、この部分は、少し後に次の記述があることから、筆者の意見であることがわかります。

懐かしさとは人の〝正〟の、そして〝生〟の感情なのです。

この作文問題では、いちばん難しい箇所だとも言えます。筆者の意見を捉える読解力が試されるわけです。

さて正答例では、最後に、「自分の意見や主張」が記されています。令和三年度、二年度ともに、前に記された筆者の主張を肯定する形で記されています。はっきりとした自分の意見がない場合には、筆者の意見を肯定したうえで、少し書き換えればいいでしょう。その際、「~すべきだと思います」「これからは~しようと思います」「~努力します」などと記せば、自分の主張となります。

なお、筆者の意見への反対意見を書くのは。限られた時間では難しい場合が多く、賛成のほうが、どちらかと言えばおすすめです

実際に、令和三年度の正答例では「自分を肯定し、気持ちが未来にひらかれる感情だと筆者は述べています」を受けて、「将来の夢に向かって努力しています」と書かれています。また、令和二年度も「自律分散的に状況に対応する組織を理想としています」に対して、「私も自ら行動できる生活委員になれるよう努力していこうと思います」と記されています。自分独自の意見を書かねばならないと、難しく考える必要はありません。どのような意見を持っているのかを、試しているのではないからです。比較的容易に得点できるはずです。

●対策を万全にしておけば大丈夫

さて、上記のように「型」を明確にして作文すれば、合格点を取れると考えます。とは言え、練習を重ねておくことが大切です。これには、都立高入試の過去問演習をお勧めします。演習を通じて、自分でも「書ける」という感触を得ておいてください。「型」を身につけることが大切です。このような対策をしている人とそうでない人とでは、当然差がつくのです。

続いて、間違いやすい表記について、いくつかご紹介しておきます。減点されないためにも、十分留意してください。

「~。なので、~」は、使わない。最近話し言葉では使われる「なので」です。これを単体で接続語として用いることは、誤りです。「だから」と記してください。作文でも誤って使われるケースがとても多いので、特に気をつける必要があります。

「明日は、読書をしたり、散歩をして過ごそう。」と書いた場合は、誤用となります。「たり」を並列・列挙の意味で使用するときは、一つの動作につき、一回使うのが正しい使い方。この場合、「明日は、読書をしたり、散歩をしたりして過ごそう。」が正しい書き方です。

「~である。」、「~です。」を混ぜて使ってはいけません。これも良く気をつけていないとよく間違うものです。この間違いを解決するには、一文を書く毎に振り返って読むことを習慣にすると良いでしょう。、

ところで、限られた試験時間内で「二百字」というと、多く感じられる方もいらっしゃるかもしれません。実際に書いてみるとわかりますが、さほど多い分量ではないのです。ただし、文章を書きなれていない生徒にとっては難しいかもしれません。

日頃から、百字から二百字程度に文章を要約する練習などを、中一や中二の頃から始めておくのが得策であると考えます。ちなみに当塾生は、入塾後は全員が要約練習を行います。最初は皆さんとても嫌がりますが、確実に国語の力が上がりますし、書くことへの抵抗がなくなるのです。

二百字作文は、正しい準備をして臨めば、恐れる必要はありません。来年受験を控えた中三生も、今日から準備を始めましょう。始めるべきは今です。明日ではありません。