●読解力が試される
前回に続いての早稲田中学校の入試問題研究、今回は国語を取りあげます。
本校の入試200点満点中、国算は各60点です。国語は算数とともに合格に大きく影響する教科と言えます。試験時間は50分です。例年大問が二題、物語文と論説文です。問題数は2020年度では18問、文章量は約7,500字、2018年の約12,000字からは減少傾向です。時間を十分使い、じっくり考えて解くのが本校の問題と言えます。テクニックや感覚では解けない、正しい読解力が必要です。2020年度の問題を見ていきましょう。
●文中に答えが隠されている物語文
大問1の出典は、安岡章太郎の『愛犬物語』です。物語的な随筆文です。飼い犬の死にまつわる思いなどが語られています。文章Aと文章Bが引用されています。まず、問1を見てみましょう。文章Aの最初の一文が取りあげられています。
問1
傍線部1「二月十七日、東京ではことし初めて雪らしい雪がふった」とありますが、この日の雪を通して、「私」は最終的にどのような認識にいたりましたか。文章Aを読み、解答欄に合うように、二十五字以上三十字以内で答えなさい。
解答欄:私にとって( )という認識
この問題は、本校に特有の少ない字数の記述問題の一例です。ここではまず、問が何を聞いているのか、「何を答えるのか」を確かめます。「最終的にどのような認識にいたりましたか。」とありますが、これは、「結果として、どのような認識にたどりつきましたか。」と言い換えてみます。筆者の認識が固まった部分から答えを見つけることになります。見方を変えると、傍線部近くには答えがないと想定することができます。
続いて、設問の「この日の雪を通して」に着目します。「雪の日」が出てくる部分を探す必要があります。文章Aを読み進めていくと、最後の段落に「きょうの雪のふる庭を見ているうちに、なぜかコンタの死が実感としてやってきた」、また、「~コンタの死んだことがハッキリとわかってきた」という表現が見つかりました。最終的にコンタの死を認識したということがわかりました。文中から解答を探していくことが、国語の問題を解く秘訣です。
さて、解答欄には、「私にとって」とあります。これに続くように解答を作る必要があります。「私にとって」をヒントにしましょう。「私にとって」と「コンタの死を認識」をつなぐわけですから、私にとってコンタがどのような存在だったかのかを、文章Aから探し出していくわけです。「しかし、なぜか私はコンタに死期がくるということが信じられなかった。」、「げんに自分の傍らで生きているものが、ある日、ぽっくり死んでしまうということは、到底有り得べからざることのように思われたのだ。」などの表現が何度も出てきます。コンタが死ぬとは思っていなかったことや、とても大切に育てていたことがわかります。この二点は、解答に含めておきたいところです。字数指定が五字以内の範囲ですので、過去問等で、よく調整の練習をしておくとよいでしょう。
解答例:
<私にとって(かけがえのない存在で死ぬことはないと思っていたコンタが死んだ)という認識>
続いて、選択肢問題から一題取りあげます。
問7
傍線部5「そういう心持を詩に託することが出来よう」とありますが、「私」にとって「詩」とはどのようなものだと考えられますか。その説明として最もふさわしいものを次から選び、記号で答えなさい。
ア 言語化しがたい想いを間接的に表すもの
イ 人の心を日本的な風景美に置き換えるもの
ウ 人間の一般的な感情を物語として語るもの
エ 個人の具体的な経験を正確に送り届けるもの
オ 動物の行動を擬人化して理解しやすくするもの
傍線部5の意味は、「私」にとっての詩とは、「そういう心持」を表すものだということです。これはわかるでしょう。ですので、「そういう心持」を何かを明らかにします。直前に「それは淋しいとか悲しいとかいうものではなく、何とも名づけようのないムナシサであった。」とあります。これは、「言葉にできない気持ち」ということです。選択肢を見ると、アに「言語化しがたい想い」とありますので、正解はアです。このように設問の趣旨を筋道を立てて考え、傍線部の近くを精読していけば、答えを見つけるのは決して難しくはありません。「そういう心持」が何を指すのか、指示語の問題と考えればいいのです。こういう問題を実に正解しておくことが肝要です。
●筋道を立てて論説文を読み進める
論説文も物語文同様に正しく読解していけば、恐れるに足らずです。2020年度の大問二は、高木正勝の『音楽が生まれる』からです。これは、随筆風の論説文と言ってよいでしょう。記述問題を一題取りあげます。四十字から五十字で答える問題です。
問6
傍線部3「心が揺さぶられる」とありますが、それはなぜですか。解答欄に合うように、四十字以上五十字以内で説明しなさい。
この問題は、傍線部3の理由を聞いている問題です。まず、傍線部3とは何かを明らかにします。前の行から読んでいくと、「~作業唄は、特別なよさがある。独りで唄ってもいいのだけれど、みんなで唄った時の特別な響きに(心が揺さぶられる)」と書かれています。「作業唄に感動する」ということです。この理由(なぜ感動するのか)を考えていけばいいのです。そして作業唄の魅力は何なのかを答えればいいわけです。傍線部の二行後から四行後に記されています。「~じっくりじっくり育まれた関わり合いや繋がりの中から生まれてきた唄」、「人間だけじゃなく、他の生き物や自然を内に入れている美しい音楽」との記述があります。この二つをまとめれば正解となります。
<皆で唄っている「作業唄」の響きは、(じっくり育まれた関わり合いや繋がりの中から生まれ、人間や他の生き物、自然を内に入れた美しい音楽)であるから。>などが解答例となります。問題文や設問から解答を探せば正解となるのです。
今回は、記述と選択肢を合わせて三題を取りあげました。50分の試験時間で15題から20題(うち記述は2題程度)を解答することになります。問題文を細かい部分まで正確に読みとることができ、設問の趣旨を理解して解答することができれば、合格点に達することは、決して困難ではありません。特別のテクニックや知識は不要です。感覚で解答するのではなく、論理で解答することを心がけることが、本校合格への一番の対策であると考えます。