●読解問題のパターンのひとつである抜き出し問題
国語の読解問題は、形のうえでは大きく次の三つに分けられます。選択問題、抜き出し問題、記述問題です。このうち抜き出し問題、すなわち「~を書きぬきなさい」「本文中から~ぬき出しなさい」などと問われる問題は、苦手だという生徒さんが多いようです。ここに通われるお子様からも「ずっと探していたけれど結局見つからなかった。」「ここで時間を使い過ぎて結局他の問題が解けなかった。」などの声を聞くことがあります。
塾や予備校のテストでは、よく出題されています。また学校によっては必ず出題されるので、対策をしておくことが重要です。ポイントを整理してみましょう。
●設問で何が問われているのかを理解する
抜き出し問題に限る話ではありませんが、まず設問を正確に読むことが大切です。実は抜き出し問題では、設問自体にヒントがあることがとても多いのです。問題をサラッと読んで、すぐに本文中から探し始めてはいけません。
2019年度の慶應義塾普通部の「大問二 問六」を例に確認してみましょう。
問六
「(傍線)考える間もなく一斉に、ロボットの知識を頼る」とありますが、これと同じ内容の表現を本文中から三十字で探し、始めと終わりの五字を書きぬきなさい。
この文章では、傍線部を含む一文ともう一文とがひとつの形式段落となっています。下記の内容です。
しかし、このごろではどうなるのかというと、(ここから傍線部)考える間もなく一斉に、ロボットの知識を頼る(傍線部終わり)のである。つまり、考える前に調べてしまう。
この問題の趣旨は、傍線部と同じ内容の表現を探すということです。まずこの傍線部がどういう内容なのかをは明らかにします。読点を境目に、前後に分けて考えていきます。前半は、「考える間もなく」ということです。「考えることなく」といいかえることもできるでしょう。後半は「知識を頼る」ということですから、全体では「自分で考えることなく、他者から得る知識に頼る」といっていいでしょう。これとほぼ同じ意味の表現を探すことになります。
傍線文を含む文の直後では、「つまり、考える前に調べてしまう。」と言い換えています。これは三十字に満たないので解答ではありませんが、解答を見つけ出すヒントにはなり得ます。これと同じ意味の一文を探すことになります。
さてこの段落の冒頭には、「しかし」という逆説の接続詞があります。この前の部分には、この段落とは対照的な内容が見つかりました。かつて編集者と数時間にわたって議論した「想像の時間の楽しさ」を記した、十一行にわたる具体例です。この具体例は解答にはならないのは言うまでもありません。
そしてこの具体例の直前に
正しくは、考えたり議論をしたりする間もなく、だれかが解答を調べてしまうのである。
という一文があります。傍線文と同じ内容です。ここから三十字を抜き出すことで正解となります。解答は、「考えたり議論をしたりする間もなく、だれかが解答を調べてしまう」です。
傍線部、傍線部を含む一文、傍線部のある段落の内容を正しく理解することがまず大事です。その後、ここと同じ話題が展開されている箇所を、近くから遠くへと探していくことで正解が見つかります。このとき正解が含まれることの少ない具体例は軽く読みつつ、筆者の意見が書かれている箇所に注目することが肝要です。
なおこの問題では「三十字」という指定があります。最終的に解答を確定する際にはとても重要です。ただしこれに注目して三十字の部分をやみくもに探すことが、設問中のヒントを活かすということではありません。
●様々な設問パターンに対応する
上で取りあげた問題は、傍線部と同じ内容を答えるものでした。抜き出し問題には、この他対照的な内容を答えるものなど、いろいろな種類があります。別に恐れる必要はなく、設問がどのような解答を求めているものなのかを正確に把握すればよいのです。一例を見てみましょう。
早稲田中学校 2019年度(第一回)の「大問二 問一」です。この文章は、ジャーナリストである筆者が事実と真実の違い、メディアが自覚すべきことなどについて述べたものです。
問1
傍線部1「真実はひとつじゃない。事実は確かに一つ」とありますが、筆者はこの文章で「事実」と「真実」をどのようなものとしてとらえていますか。それを説明した次の文の(A)・(B)に当てはまる対照的なことばを本文中よりそれぞれ探し、書き抜きなさい。事実とは(A)なものであり、真実とは(B)なものであるととらえている。
この問題では、事実と真実を説明する対照的なことばを探すことが求められています。
この問題でも傍線部にヒントがあります。真実はひとつではなく、事実はひとつだということです。ここで明らかに真実と事実は対照的なものであることを示しています。ですので、真実と事実を比較しながら記している箇所を見つけることで、解答に近づいていきます。傍線の六行前で終わる形式段落が見つかります。
メディアやジャーナリズムにおいては、これがとても重要だと僕は考える。自分は決して客観的な事実など伝えていない。自分が伝えられることは、結局のところは主観的な真実なのだ。そう自覚すること。だからこそ自分が現場で感じたことを安易に曲げたり変えたりすり替えたりしないこと。
「客観的な事実」と「主観的な真実」ということばが浮かび上がります。事実は客観的でひとつであり、真実は主観的なものでありそれぞれ違う(ひとつでない)、という筆者の主張が読み取れます。正解はAが「客観的」、Bが「主観的」となります。
●解答する際の留意点
抜き出し問題は、文章中からそのままの形で抜き出すことが鉄則です。本文中でひらがな書きならばひらがなで、漢字で書かれていたら漢字で書かなければなりません。意外に間違うお子様が多いのです。「本文をコピーしてはりつける」、この意識が大切です。
また、間違いやすいものは句読点や記号です。これもそのまま書き写すのです。それぞれ一字と数えます。なお、最後に本文にはないのに「。」をつける解答も見られます。本文にないものを書いてはいけません。
字数も「〇〇字で」なのか「〇〇字以内で」なのかなど、正確に設問を読んでおくことが大切なのは言うまでもありません。
いずれにしても設問の指示通りに答えること、これが大切なのです。
●大切なのは読解力
抜き出し問題を解くのに、特別な技能は必要ありません。設問を正確に読む、そして本文を正しく理解していれば恐れるに足りません。読解力が大切なのです。
ただし、抜き出し問題のなかには、解答が離れているなど、正解が見つけにくいものもあります。本文全体を見ても見つからない、時間は容赦なく過ぎていく、これでは焦るばかりですね。とくに本文全体の要旨や主題にあまり関わらない問いの場合、なおさらです。
離れているところから探す問題は難しく、正答率が低いのです。無理して時間をかけると他の問題が解けなくなります。自分で制限時間を定め、時間が余ったらあとで解くくらいで十分です。抜き出し問題の成否で合格は決まりません。これに時間をかけ過ぎて、他の問題に時間をかけられないことのほうが問題です。