●物語文の記述問題に取り組む

前回取りあげた論説文に続いて、物語文の記述問題の解き方を確認していきます。論説文の場合、要旨や中心テーマに関わる筆者の意見をまとめる問題が主流です。一方物語文の場合は、主題や主人公の心情についての問題が中心です。いずれも読解がしっかりとできていれば、解けるようになります。

物語文の読解においては、誰が主人公かを見定め、周りにどのような人物がいるか、どのようなできことが起きているのか、そしてどのように主人公と周りの関係が変化したのかを捉えることが大切です。これは主題につながります。そして記述問題を解くにあたっては、設問で聞かれていることを正確に把握したうえで、本文中の該当箇所のことばを使いながら、解答の文章を作成することになります。

●実際に物語文記述問題を解く

今回は、物語文記述問題の典型的な例を実際に解いていくことにしましょう。海城中学校2025年度(第一回)大問一の問十です。

傍線部10「教室に溢れる多幸感と、その雰囲気についていけなかった自分のことも」とあるが、「僕」はどうして「その雰囲気」についていけなかったのか。「教室に溢れる多幸感」とはどのようなものであったかに触れながら、八〇字以上、一〇〇字以内で答えなさい。

この問題を解くにあたって必要な情報を、整理してみます。

この問題に引用された本文のあらすじは、次の通りです。この文章自体は場面が小学校であることもあり、中学受験生にとっては決して難しいものではないと考えます。

小学六年生のときの担任であった須磨(あだ名はスマイル)が市議会議員になったと知った小説家の「僕」が、須磨が学級崩壊していたクラスを立て直したことや、「感謝カード」システムをきっかけに自分が須磨に違和感を覚えたことについて、懐かしく振り返る場面です。(「感謝カード」システムとはクラスの誰かへの感謝をカードに書くことから始まり、教室に「感謝の木」という掲示板が貼られ、そこに感謝カードが貼り付けられたことを指します。)

設問の傍線部は、最終段落にある二文のうちの一つです。最終段落とその前の数行を、ここに引用します。

 そもそもスマイルはいい先生だったのだろうか。たぶんいい先生だったのだろう。意地の悪い性格をしている僕と合わなかっただけで、世界を良くしているのはスマイルのような人なのかもしれない。
「今週の感謝MVPは……唐沢くん! 全員で拍手! さあ、唐沢くんから一言どうぞ!」
 帰りの会で笑顔を見せながらそう口にしていたスマイルのことを思い出す。⑩教室に溢れる多幸感と、その雰囲気についていけなかった自分のことも

さて設問に戻ります。この設問で求められている解答は、

①教室に溢れる多幸感の雰囲気に主人公がついていけなかった理由を記すこと。
②その際、「教室に溢れる多幸感」とは何かについて記すこと。
の二つです。

教室に溢れる多幸感については、本文中で何度もふれられています。また引用した問題文の終わりの部分を見てもわかります。「感謝カード」や「感謝の木」のシステムによって,クラス全体がお互いに感謝しあうことに、生徒たちが幸せを感じていたということです。解答では、これについてまず記すことになります。

この多幸感の雰囲気に主人公がついていけなかった理由は、本文から読み取ることができます。途中までは主人公も須磨先生の工夫を喜んでいたのですが、次第に違和感をいただくようになっていきます。次のような記述があります。

さらに加えて気持ち悪かったのが、教室の後ろの黒板の横に「感謝の木」という掲示板が貼られ、提出された感謝カードがそこに貼り付けられていったことだ。(中略)偽善と虚飾に満ちたカラフルな塊が教室の後ろに掲示され続けていた。

最終的に、多くのクラスメイトたちはスマイルのことをほとんど崇拝しているような状況だったと思う。どうしてもその雰囲気に馴染めない僕たちは、最後まで浮いた存在だった。

解答にあたっては「教室に溢れる多幸感」が何かを記したうえで、主人公が感じた違和感を記すことが求められます。多幸感は本文全体から把握できますし、傍線部前後の引用部分にも表れています。違和感については、上記二つの引用箇所などから読み解けます。

この問題は、物語文の読解方法がきちんと身についていれば解ける問題です。すなわちこのブログの冒頭に記したように、誰が主人公かを見定め、周りにどのような人物がいるか、どのようなできことが起きているのか、そしてどのように主人公と周りの関係が変化したのかを捉えることが肝要なのです。この問題の解答は、この関係変化を主人公の視点から記すことになります。後は、本文中の該当箇所のことばを使いながら文章を作成していくことになります。次のような解答が導かれます。

クラスの皆がほめあったり感謝しあったりする教室の雰囲気に生徒たちは幸せを感じていたが、その裏にある心のこもっていない言葉や見返りを求める感謝などの偽善や虚飾が白々しく「僕」は馴染めなかったから。

●記述問題は「恐れるに足らず」

さて、この問題文の傍線部は、問題文の最後の一文です。またこの問題(問十)は、この大問の最終問題です。主題は文章のやま場に記されることが多く、最終問題も主題にかかわるものが多く出題されます。この設問も作者が最も読者に伝えたいこと(主題)に関わる問題でした。最終問題は全体の主題にかかわる場合が多いということは、頭に入れておいてよいでしょう。

記述問題は、何もヒントのないところから作文する能力が求められているわけではありません。問題文を理解すること、そして設問の趣旨に合った箇所を問題文から見つけることがまず重要なのです。その点では選択肢問題などと変わりません。後は正しい日本語を用いて、読む人がわかりやすいように記すことが求められるのです。臆せず取り組んでいきましょう。