●ウェイトの高い選択肢問題

国語の入試では、選択肢問題を確実に正答することがとても重要です。ほとんどの学校で選択肢問題が出題されます。これで加点できるかどうかで、結果は大きく変わります。たちえば百点満点のテストで、選択肢問題一問の配点が5点だとします。二問間違えれば10点のマイナスです。10点、これは大きいですね。三問ならば15点、もしかすると合否を左右するかもしれません。選択肢問題で常に合格点を取れるようにしておくことは、必須だと考えてよいでしょう。

ところで、いわゆる難関校の問題は記述が中心だから選択肢問題対策は二の次だと、思われる人もいるかもしれません。この考えは、改めておいたほうが良さそうです。例えば海城中学校では例年おおよそ二十問の選択肢問題が出題され、そのほとんどが読解力を試すものです。これらに対応できなければ、合格はおぼつかないでしょう。麻布中学校では二~三問が出題されていますが、ここは必ず全問正解して、得点を確保しておかなければなりません。今回は実際に本校の問題を確認しながら、選択肢問題への取り組みを考えていきます。

●設問を理解する→本文を確かめる→最後に選択肢を吟味する

選択肢問題を解くうえで大切なことは、まず設問(問題文)をしっかりと読むことです。問題で何を問われているのかを、正確に把握することが大事です。問題文のなかには、(傍線部として)本文が含まれている場合が多いので、ここもしっかりと読むようにします。傍線部に書かれたこと自体を、正確に把握するのです。

設問の内容によっては、傍線部の前後や傍線部を含む段落、さらにその前後の段落、あるいはそれ以上まで確認する必要が出てくる場合もあります。いずれにしても、問題文と本文のなかに解答があるという意識を持って取り組むことです。

選択肢の吟味はそれからです。選択肢は当然のことながら正解以外は誤りなのですが、一見どれも正解に見えるようにできています。本文を離れて常識的に考えてみれば正しいと思われるものも含まれています。

大切なことはこれらに惑わされずに、あくまでも設問と本文から解答の糸口を見つけ出すということです。そして選択肢を構成している要素を正確に分析していくことで、解答は見いだせるのです。

●実際の問題に取り組む

ここで取り上げる問題は、2022年度麻布中学校の問題です。麻布中の国語は、例年物語文を題材とした大問一題のみです。このなかから問四を取りあげます。ちなみにこの年度の問題は、漢字の書き取り四問、記述問題十問、選択肢問題三問で構成されています。

問四 傍線部③「自分のからだのなかに一本の太い滝を流すような、絵のなかの音を描きだすような、豪快で、繊細な不動の滝で、必ず賞を獲りたい。獲る」(97~99行目)とありますが、この時の「私」について述べたものとしてふさわしいものを、次のア~エの中から一つ選んで記号で答えなさい。

ア 
大切なものを失う体験をしたので、大好きだった祖母を思い出させてくれる優しい滝の絵を描き、それを評価してほしいと思っている。


かつてない混乱の中にいるので、自分を揺るぎないものにしてくれるような力強い滝の絵を描き、それを評価してほしいと思っている。


あまりにつらい現実の中にいるので、その現実を忘れさせてくれるような幻想的な滝の絵を描き、それを評価してほしいと思っている。


言葉にできないような恐ろしい経験をしたので、それが相手に伝わるような激しい滝の絵を描き、それを評価してほしいと思っている。

まずすべきことは、設問を正確に把握することです。「この時の『私』について述べたものを~答えなさい」とあります。この時の私とは、設問中の引用部分を指します。ここの内容とイコールのもの、これを言い換えた選択肢を選べばいいということになります。

ですので、まず傍線部に何が記されているのかを確認します。やや長い文章ですので、全体をいくつかに分解してみます。

A「自分のからだのなかに一本の太い滝を流すような、」
B「絵のなかの音を描きだすような、豪快で、」
C「繊細な不動の滝で、」
D 「必ず賞を獲りたい。獲る」

と分けてみました。それぞれの部分と選択肢を比べてみることで、正解が浮かび上がってきます。

ここで初めて選択肢を見比べてみます。すべての選択肢の末尾は、「それを評価してほしいと思っている。」です。傍線部のD「必ず賞を獲りたい。獲る」と対応していると考えられます。ここに違いはないので、他の部分(A~C)を確認してみましょう。

A「自分のからだのなかに一本の太い滝を流すような、」、これは比喩表現ですね。どの選択肢にも、この内容と関連するものは見当たりませんので、ここはひとまず無視しておきましょう。

B「絵のなかの音を描きだすような、豪快で、」もたとえですが、ここでのキーワードは、「豪快」とみてよいでしょう。これと似たような表現が、 イ「力強い滝の絵」とエ「激しい滝の絵」に見つかりました。イとエは正解の候補となります。

C 「繊細な不動の滝で、」の中心は、「不動」です。イには「自分を揺るぎないものにしてくれる」という表現があります。揺るぎないとは動じることがない(不動)と言い換えることができるでしょう。もうひとつの候補のエには、「それが相手に伝わるような」と記されていますが、これに該当する表現は、傍線部には見当たりません。

上記から、イが正解であることがほぼ確実となります。念のため、アとウも確認しておきます。確認のために消去法を使うことになります。アの「優しい滝の絵」、ウの「幻想的な滝の絵」にあたるものは、傍線部にはありません。正解はイです。

●問われていることに答える

今回の解き方のように、「設問を理解する→該当する本文内容を確認する→選択肢を吟味する」が基本です。なおこの問いでは、解答に必要な本文はすべて設問の傍線部に含まれていました。前述の通り必要に応じて傍線部の前後も確認する必要性があることは、言うまでもありません。

ここまで見てきた通り、選択肢問題ではいわゆる難関校の問題であっても解答は紙面のなかにあるのです。紙面とは設問、本文、選択肢のすべてを指します。とくに設問を正確に把握すること、傍線部の意味を吟味することを大切にしていくことが肝要です。

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