●心情を問う問題が主体の物語文

入試問題のなかでも配点が高いのが記述問題です。鷗友学園女子中学校、芝中学校など読解問題の全問が記述の学校もあります。記述問題の苦手意識を払拭し得意にすることで、国語の得点力は格段に上がります。今回は、物語文の記述問題への対応について記していくことにします。正しい解き方を、練習を通して身につけていくことが肝要です。

ご承知の通り、物語文の読解では主人公を始めとする心情を問う問題が中心です。これの解き方のおさらいをしておきます。原因・理由と気持ち(心情)を書くのが原則です。気持ちだけ、あるいは原因・理由だけの解答では高得点になりません。

気持ちを表すことば(心情語)は、ある程度語彙を充実させておくことが大切です。「うれしい」「悲しい」「くやしい」「ほこらしい」などのほか、「優越感」「後ろめたさ」「共感」「同情」などが使えると良いでしょう。塾のテキストなどで整理しておきましょう。

心情の変化は、何かしらのできごとが起きることによって生まれるものです。心情自体は文章中にはっきりと書かれることは少ないので、登場人物の様子・動作・セリフから読みとっていくことになります。この作業がもっとも大切です。

下記の場面で考えてみましょう。

「言い訳をするんじゃない。」と、父はぼくに言い放った。

という一文で、このときの父の気持ちを答える問題があったとします。
「言い訳をするんじゃない。」というセリフと「言い放った」という動作から、父は怒っているということがわかります。怒っている原因は、言うまでもなくぼくが言い訳をしたことですので、解答は、「ぼくが言い訳をしたので、怒っている」(理由+心情)となります。むずかしそうに見える記述問題も、この応用で解けるのです。

ここで一点、留意しておくべきことがあります。ひとの性格が一日で変わるということはめったにありませんが、気持ちは変わります。ですので、設問がどの時点の気持ちを問うているのかを正確に見届けないといけません。

ひかる君は転校したばかりでまったく知り合いがいないのでいつもひとりで休み時間をすごしていました。しかしようた君にやさしく話しかけられたことをきっかけに、みんなといっしょに休み時間をすごすようになりました。

という文章があったとします。ようた君に話しかけられる前の気持ちと、そのあとの気持ちは全く違います。設問が「ようた君に話しかけられる前のひかる君の気持ちを答えなさい」ならば、解答は「転校したばかりでまったく知り合いがいないで、心細い」になります。ようた君に話しかけれた後の気持ちを問われれば、別の解答になるわけです。

どの時点の心情かを正確に把握して答えることが。肝要です。意外にこれを間違う生徒さんが多いのです。また、次のような設問もありますので留意しましょう。気持ちがどう変化していくのかを捉えることが重要なのです。

本文を通じて、ひかる君の気持ちはどのように変化しましか。説明しなさい。

この場合の解答は、次のようになります。

はじめは転校したばかりで全く知り合いがなく心細かった。しかしようた君にやさしく話しかけられたことにより、新しい学校でもやっていけるという晴れやかな気持ちになった。

マイナスの感情からプラスの感情に変化しています。

●実際の入試問題を見てみましょう

今回は、駒場東邦中学校2020年度の問題を取りあげます。本校では、例年一万字近い物語文一題と漢字書き取りが出題されています。

今回の出題作品では、アフリカ系のブラジル人の父と日本人のサンバダンサーの母との間に生まれた「シッカ」が外見が周囲と違うためにからかわれ、自分自身を嫌いになり習っていたバレエもやめてしまいます。そんなときに義足のダンサーである「岬」に出合う様子が描かれます(出典は、黒川 裕子『夜の間だけ、シッカは鏡にベールをかける』)。

さっそく問題をいくつかみていきましょう。

問4
傍線部②「そんなことは意地でも口にしない」(4ページ)とありますが、ダンスに対してシッカはどのような思いを抱いていますか。母親への思いをふまえて、九十字以内で答えなさい。

問題を解く際、解答すべき要素は何なのかをはっきりさせていくことが大切です。そのために、まずは設問をしっかりと読みます。ここでは、ふたつのことが問われています。ひとつは、「シッカのダンスに対しての思い」です。もうひとつは、「(シッカの)母親への思い」です。このふたつを答えれば正解です。

「母親への思い」は、一言でいえば反発です。母親がサンバダンサーであるためにかかわわれ、悩んでいることは文脈から容易に読みとれます。

また、「シッカのダンスに対しての思い」は、傍線部の前後に書かれています。

本当はダンスは嫌いじゃないけど、(傍線部)そんなことは意地でも口にしない。たぶん、母親の思いどおりになるのがいやで、習っていたモダンバレエも小学校五年生のときに
やめた。

正解は、上記ふたつの要素を含み、次のようになります。

母親がサンバダンサーであることで、学校で「サンババア」とからかわれて悩んでいるため、本当はダンスが嫌いではないのだが、母親の思いどおりになるのがいやで、ダンスはしたくないという思い。

問題を見たときにどういう内容を解答にするのかを最初に見定めること、これが大切なのです。

問6
傍線部④「そう、踊っている、ように思う」(6ページ)とありますが、ここで「ように思う」として、「踊っている」と断言していないのはなぜですか。五十字以内で答えなさい。

この問題は若い男が踊っている姿に対して、主人公が「踊っている」と断言していない理由が問われているものです。傍線部の直後をしっかりと読むことで解答を作れます。

 シッカはほかの同世代の女の子よりダンスに詳しい。もう自分で踊ることはないけれど、ダンスに囲まれて育ったからだ。(中略)
 でもこの踊りは、そのどれとも違う。
 一番違うのは、男のすがただ。男の右足の膝から先は途切れている。

この後、男が義足でありながら、見事な踊る姿が記されています。

「男のダンスが今まで見たことのあるダンスと違っていたから」ということが解答の骨子、すなわち踊っていると断言していない理由です。これだけでは五十字に満たないため、義足ながら見事な踊りであることを補足すれば正解となります。

義足でありながら見事な踊りである男のダンスは、これまでに見たことのあるどのダンスとも違っていたから。

などの解答が導かれます。

この問題の正解の根拠は、本文中しかも傍線部の前後をていねいに読むことで見つけられました。これと同様に、正解の根拠は必ず文中にあります。自分の思い込みや想像で解答を作ることは避けましょう。これが鉄則です。

なお、「自分の意見を書きなさい。」などと記された問題以外は、解答に使う言葉はできるだけ文章のものを使うようにしましょう。本文の言葉を自分の言葉に変換するには、時間がかかります。またわざわざ自分の言葉に書き換えたために、解答のニュアンスが変わってしまうこともあります。

問7
傍線部⑤「夏虫が火に引き寄せられるように」(7ページ)とありますが、これはシッカのどのような様子を表していますか。三十字以内で答えなさい。

「・・・ように」とありますので、これは比喩表現です。この問題を解く際は、傍線部を一般的な言葉に言い換えることが肝要です。比喩表現を残してはいけません。

「夏虫が火に引き寄せられるように」とは、夏虫が本能で無意識に火に近づくこととシッカの様子を重ね合わせて表現したものです。問題文では、シッカがダンスに魅了されている様子が記された後、「夏虫が火に引き寄せられるように、ふらふらと男に近づいた。と書かれています。

見たこともない踊りへの興味がおさえきれず、無意識に近づいていく様子。

などが正解例です。

この問題以外でも「~とはどういうことですか。」などと問われることは、よくあります。傍線部をわかりやすく説明することが求められているわけです。ですので、出来るだけ一般的でわかりやすい表現を心がけましょう。なお「目を丸くする」「まゆをひそめる」などの慣用句も、言い換えることが大切です。

なおここでは、「~どのような様子を表していますか。」と問われています。ですので、「~様子。」と解答します。理由を聞かれたら「~から」あるいは「~ため」と答えるなどして、文末表現で減点されないように留意しましょう。このようなことでの減点は、もったいないです。

問12
傍線部⑨「なぜか、数秒後には『やります』」とうなずいていたのだ」(14ページ)とありますが、それはシッカがどのようなことに気づいていたからだと考えられますか。シッカの心情の変化をふまえて、百字から百二十字で答えなさい。

この問題は、登場人物の気持ちを答える問題の典型です。そのため、原因・理由と気持ち(心情)を書くことが求められます。ここでは「シッカがどのようなことに気づいていたからだと考えられますか。」と聞かれています。加えて、「シッカの心情の変化をふまえて」とあります。設問中の指示は、大きなヒントにもなります。

シッカはあることに気づいたことによって、(ダンスを)「やります」という気持に変わったわけです。あること=できごとによってシッカの気持が変わったわけですので、はじめの気持ちができごとによってどう変わったかを書けば正解となります。はじめの気持ち(原因+気持)→できごと→あとの気持(原因+気持)の順に解答を作成します。

本文では母親の影響などでダンスを遠ざけていたシッカが、義足の男(岬)の言葉からダンスが好きなことに気づいた経緯が記されています。次のように解答をまとめます。

周囲の子と外見が違い、日本人らしくない自分を受け入れられずダンスを遠ざけてきたが、岬の言動や生き方にふれたことがきっかけで、他人の言葉で納得するのではなく自分なりの生き方が大切なことを学び、本当はダンスが大好きだということに気づいたから。

●記述問題は怖くありません

記述問題を苦手と考える生徒さんは多く、模試の解答などが白紙のままのケースも見られます。決して恐れることはないのです。必ず正解は本文中にある、まずはそれを見つけ出だしてください。最初は思い通りに書けないかもしれませんが、まずは解答用紙を埋める努力をしてください。

少しずつ部分点が取れるようになっていきます。自分の解答用紙と解答例を見比べて、何が足りないのか、何が余計なのかを確かめましょう。難問だと感じたら、解答例を書き写すだけでも学びになります。やがて力がついてきたことに気づくはずです。