●苦手意識のある生徒が多い記述問題

塾のテストの答案を見せてもらうことが、よくあります。読解問題のうち記述式の問題が苦手で、ほとんど白紙のままだというものも何度か見ました。記述問題を嫌がるお子さんはたくさんいます。ただし多くのお子さんが苦手だとすれば、これを得意にしたり苦手意識を払拭したりすることで、受験生のなかでは優位に立てるはずです。記述問題にどのように取り組むとよいのか、どうすれば得点力が上がるのか、数回に分けて記していこうと思います。

記述問題に苦手意識を持っていると、たとえば「~五十字以内で説明しなさい。」という問題を見たときに、五十字も自分で最初から考えなくてはならない、どうしようと思ってしまうのかもしれません。ただし、ほとんどの記述問題では、本文中のことばを使って設問の趣旨に合った解答を作ることが求められるのです。自分の意見を求められるのではなく、論説文ならば筆者の主張を、物語文ならば登場人物の心情を答えることが求められることが多いのです。

●文章中の言葉を使うこと

できるだけ文章中の言葉を使うのが原則ですので、文章中のどこから答えを見つけ出すかが重要なわけです。これは、選択肢問題や抜き出し問題と同じです。筆者の考えなり登場人物の気持ちなりを、文章中から探るまでの過程は変わらないということです。解答の様式が異なるだけだと考えればよいでしょう。なお選択肢や抜き出しでは、正解は一つしかありません。記述問題では、一定程度のことを記すことができれば部分点はもらえます。そしてその部分点でさえも、選択肢問題一題より高いことが多いのです。これに挑まない手はないはずです。

また文章中のことばを使うべきだというのは、筆者の主張や登場人物の心情を聞かれている場合が多いのですから当然のことなのです。ただし、物語文の記述問題では少し気をつける必要があります。心情が「うれしい」「かなしい」などのいわゆる心情語を用いて表現されるとは限らないということです。むしろ心情語を用いずに心情を表現する場合が多いようです。この場合、登場人物の「動作、表情、言動」などから心情を把握し、これを解答では心情語として記す必要があります。物語文の記述問題については、次回以降に取りあげます。

●本文を読んでいない人がわかるように書く

記述問題では文章中から解答となる箇所を見つけ出し、そこを設問が求めているものにしたがって解答を作っていくことになります。その際、良い解答をするコツは「本文を読んでいない人でもわかるように書く」ということです。試験官は本文を読んでいないと仮定して、読んでいない人にもわかるように書くことを心がけるのです。

具体的には、本文を理解している人にしかわからない比喩、指示語などは決して使わないことです。また、主語、述語、目的語の関係も初めて読んだひとでもわかるように書くのです。これらを意識することで、記述問題の書き方はどんどん上達していきます。

●記述問題のパターン

国語の記述問題の基本パターンは、さほど多くありません。物語文では、多くの場合登場人物の心情が聞かれます。前述の通り心情自体はそのまま記されることは少ないので、気持ちを表すことば(心情語)を記すことがまず重要です。ただしこれだけでは解答としては不十分です。「その気持ちになったきっかけとなったできごと」を前に加えることで、正解となります。

論説文の場合、大きくは三つに分けられます。

①指示内容を答える問題
「『これらの場合』とは、どのような場合か答えなさい。」などと聞かれます。指示語の指す内容は、まず前の部分から探します。
②言い換えを答える問題
「・・・とはどんな状態だと筆者は考えているか。文章中のことばを用いて答えなさい」
などの問題です。論説文では一般的な説明の後に具体的に言い換えて説明したり、具体例の後に一般的に説明されたりする場合が多いのです。そのため、傍線部の直前、直後に目をつけるといいでしょう。
③理由や原因を答える問題
「・・・とあるが、筆者はその理由をどのように考えているか。五十字以内で答えなさい。」などと問われる問題です。論説文では、原因の後に結果を説明することや、事実や意見の後で理由や根拠が記されることが多くあります。そのため、ここでも傍線部の直前、直後にまずは注目します。

次の節で、実際の入試問題を確認してみましょう。

●実際の入試問題

令和三年度の聖光学院中学校、大問四の問八を取りあげます。前節の分類では、「言い換えを答える問題」です。難関校の問題でありますが、本文を正確に読み取ることができれば、正解の解答をつくることは決して困難ではありません。

大問四 問八
傍線部⑦に「『突飛』な『面白さ』は、『意外性』による『面白さ』とは、少し違っているように思える」とありますが、「『突飛』な『面白さ』」を感じるのは、どのような場合ですか。六十字以内で説明しなさい。ただし、解答の際には「」や『』を使わないこと。

この問題の傍線部は、問題文最後の意味段落のはじめにあります。突飛と意外性という二つの面白さの違いをふまえ、突飛な面白さを感じる場合とは何かを解答する問題です。傍線部から文末までがこれらの違いを記した部分であることは、問題文を一読すればすぐにわかります。このうち「突飛な面白さ」については、最後三つの形式段落で述べられています。この三つの段落を見つけ、しっかりと読みとることが肝要です。

 これらは、突飛な「面白さ」といえるもので、「意外性」に含まれるようで、微妙にベクトルが違っている。相手に一瞬足を止めさせ、あるいは息を止めさせ、考えさせる、という機能では「意外性」と同じだが、予想さえさせないところが異なる。
 突飛なものに出合い、一瞬呆れたり、首を傾げたあと、「面白い」と感じるかどうかは、自分にそれが思いつけたか、と過去へ向かって予測し、遅れて「意外性」として評価される、というメカニズムだといえる。
 「思いつかない」というのも、「面白さ」の中でも重要なファクタである。簡単にいえば「発想」だ。手法や計算で導かれるものではなく、直感的なもの、いうなれば思考のジャンプを見せられるような「面白さ」である。

やや難しい表現もありますが、このなかから突飛な面白さを感じる場合の特徴が記されている箇所を取り出して、指定字数にあうようにまとめていきます。

最初の段落では、意外性との違いが記されており、「予想さえさせないところが異なる」と書かれています。冒頭に「これらは、」とありますが、具体例を指しており解答には必要ありません。

二つ目の段落では「突飛なものに出合い~『意外性』として評価される」までが、解答の中心となります。

最後の段落の「思考のジャンプを見せられるような『面白さ』」の要素も加え、末尾を設問に合わせて「~場合。」と記すことで解答となります。

この問題は、言い換えを答える問題の典型例と言えます。まずは解答に必要な内容の箇所を本文中から見つけ出し、それを解答の趣旨に沿ってまとめていくのです。次のような解答ができます。

予想さえさせないものに呆れ、首を傾げたあと、自分には思いつかなかった直感的な思考のジャンプの意外性を評価できた場合。

解答に必要な内容を本文から見つけ出す作業自体は、記述問題でも選択肢問題でも抜き出し問題でも同じです。文章を作るということに苦手意識を持つことなく、取り組んでいくことが大切です。それによって必ず得点力が向上します。今後も、折々で記述問題について記していこうと考えています。

駒沢オリンピック公園(7月5日)