●論説文とは

ご承知のように、論説文読解問題は入試の中心を占めるものです。物語文と並んでほとんどの学校で出題されます。受験生の方々に物語文と論説文のどちらが得意かを聞きますと、人それぞれ、さまざまな答えが返ってきます。。論説文の苦手なお子さんは、テーマ自体がわかりにくい、なじみのない言葉が多く出てくるので、解きにくいなどの感想を話されます。一方、論説文の得意なお子さんからは、物語文のように登場人物の心情を答える必要がなく、解きやすいなどという話をよく聞きます。いずれにしても、この論説文を攻略しない限り、志望校合格は困難です。論説文で確実に得点を重ねることが合格への必須条件と言えるでしょう。今回は、論説文の読解問題について話を進めていきます。

まず、この論説文とは何なのかを、明らかにしておきます。論説文は、あるテーマについての「筆者の主張(いいたいこと)」を記した文章のことです。ただし主張だけを書き連ねても、読者にはその内容は伝わりにくいものです。そのために、テーマを理解するうえで必要な事実、主張をわかりやすくための具体例を、適宜交えて論説文は構成されています。

説明文との違いにもふれておきましょう。説明文は物事の仕組みや由来などについて、事実を説明した文章です。筆者の意見ではなく物事の説明が主体です。大きく分類すれば家電製品の説明書なども、このなかに含まれます。説明的文章として一括りにされますが、論説文は筆者の主張が中心、説明文は物事の説明主体という違いがあるということです。とは言え、説明文でも筆者が自分の意見を述べている場合もあります。ふたつに明確な違いはないと考えてよいでしょう。問題の解き方も同じです。

●論説文の読解にあたって

前述の通り、論説文は、大きく分けて、「筆者の主張」、「事実」、「具体例」から構成されます。これらのなかでとりわけ大切なのは、言わずもがな「筆者の主張」です。これを正確に把握することによって、論説文を正しく読み、設問に正確に解答できるようになるのです。具体例や事実に気を取られているうちに、肝心の主張が読み取れなくなってしまうこともあるようです。

ただし、正しい読み方を身につければ心配ありません。論説文は筆者が読者に自分の主張を理解してもらうため、事実や具体例を交えながらわかりやすく書かれたものなのです。わかりにくくするために書かれたものではないのです。ルールに則った読み方さえすれば大丈夫です。

また、国語の問題では、必ず問題文中に答えがあります。これの探し方を習得することが大切なのです。言葉を変えれば、問題文中に書いていないことは答えではないのです。理科や社会のように、その教科の特別な知識は不要です。これからいくつか正しい読み方の例を紹介していきます。

筆者のいいたいことをつかむ時には、接続詞に着目することが大切です。たとえば、「しかし」という接続詞があれば、その後に書かれていることが筆者のいいたいことの場合が多いのです。

「科学技術の発達は、私たちの生活を便利にしてくれた。しかし、それによって失われたものもある。各人が工夫して生活しやすくすることがなくなった。」とつながる文章があれば、しかしの後が筆者の主張なのです。

その他、「たとえば」、「つまり」、「たしかに」など、接続詞には、それぞれ独自の働きがあります。これらを理解しておくことが大切になります。

また、「リビングで勉強することは、学びの効率を上がるのに効果があるのだろうか。」など、筆者による問題提起がされる場合があります。一見、読者に問いかけているように見えますが、その答えは文章中にあることが多いのです。答えを言いたいがために問題提起をしているとも言えるでしょう。その答えを探すことが大切です。「周囲がざわついている場所で学ぶことは集中力の育成に役立ち、受験本番で力が発揮しやすいと考えられる。」などの記述が見つかれば、それが筆者のいいたいことです。

他にも、「いいたいことは表現を変えて何度も繰り返される」、「一般的な説明→具体的に言い換えて説明」など、論説文にはパターンがあります。これらの読み方を身につけることで、確実に論説文は読めるようになる=設問に正解できるようになるのです。

たとえば、「~とはどういうことか。」という設問ならば、表現を変えて繰り返される同じ内容を文中から見つければいいことになります。これから、いくつか入試問題の具体例をお示しします。問題文と設問を正しく読めば正解できることを、確かめていきましょう。

●令和三年度の入試問題より

はじめに早稲田中学校の大問二から問六の選択肢問題を取りあげます。コロナ禍における他者との関り方についての文章です。

問六
傍線部4「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を保ちながら連帯感を築くという二律背反に直面しています」とはどういうことですか。その説明として最もふさわしいものを次から選び、記号で選びなさい。

ア 感染防止のため他者と距離をとらねばならない一方で、孤立しがちな社会的弱者とも協力して立ち向かわなければ感染の拡大は抑えられないということ。

イ 感染防止のため他者と距離をとる一方で、他者との接触を避けられない人々のために、寄付などの援助をすることによって、感染の拡大を防止するということ。

ウ 他者と距離をとることによって感染拡大が抑えられている一方で、社会的弱者は経済的にますます困窮し、社会文化資本にアクセスする他ないということ。

エ 社会的な弱者は、ソーシャル・ディスタンスのために誰とも接触ができなくなり、孤立するようになってしまう一方で、そのことが感染防止になっているということ。

オ 他者との距離をとらざるを得ず、経済的に損失を受ける人がいる一方で、社会の中で 助け合う必要があり、寄付が重視されるようになっているということ。

この問題では、傍線部とはどういうことですかと問うています。どういうことですかとは、これと同じ内容は何ですかという意味です。選択肢問題ですので、選択肢から同じ意味のものを探すことになります。ここで選択肢と傍線部を見比べてみても、両者の共通点は見い出せません。言いたいことは本文中で表現を変えて述べられますので、本文から手がかりを見つけていきます。傍線部の直後から次の記述が始まります。

子どもに朝食を食べさせ登校させられない一人親世帯、手を挙げて「困った」と言いづらい人たちがいます。
(中略)
困ってしまうと、どうしても自分というものを閉ざしてしまう傾向に、私たちはあるんですね。でも、そこはぜひ聞く耳を持つ相手を探して欲しいですし、私たち一人ひとりが、明日は誰かを助けられるかもしれない、そういう自分になりたいという気持ちを持つこと、持てる環境をもっと整えていくべきではないでしょうか。

まず、「困った」と言いづらい人たちには聞き耳を持つ相手をさがしてほしいと記されています。続いて、「私たち一人ひとりが、明日は誰かを助けられるかもしれない。」という筆者の主張が見られます。この「誰か」とは、「『困った』と言いづらい人」を指していると言えます。

ここで傍線部と選択肢との関連を見てみます。いくつかの選択肢には「社会的弱者」ということばがあります。「『困った』と言いづらい人たち」=「社会的弱者」、同義と考えられます。筆者の主張は、社会的弱者を助けましょう、また、社会的弱者も、聞く耳を持つ相手を探して欲しいということだということがわかります。

また、傍線部の「連帯感を築く」は、連帯する、つながるということです。社会的弱者ともつながっていきましょうということです。つながる=協力するとも言い換えられます。

傍線部、選択肢のなかから、同じ内容を言い換えているところを見つけ出していくことにより、正解は「ア」だということがわかります。この問題は選択肢の一文が長く、紛らわしいために、解答が容易でなく見えますが、同じ内容の言い換えに着目していけば確実に正答できる問題です。

続いて、桜陰中学校の大問一から問三を取りあげます。この文章では、「本当の自分らしさ」や「戦わずして勝つ」などについて、動物などを例にしながら論じられています。

問三
傍線部③について、私たちが「戦わずに勝つ」ためにはどうすればよいでしょうか。本文の内容にそって説明しなさい。

この問題では、「本文の内容にそって」とあります。入試問題では、答えは必ず文章中にあるのです。それを探せばいいのです。数行先に次の記述が見つかりました。

 勝者と敗者がいたとき、敗者はつらい思いをします。どうして負けてしまったのだろうと考えます。どうやったら勝てるのだろうと考えます。
 彼らは傷つき、苦しんだのです。
 そしてナンバー1になれるオンリー1のポジションを見つけたのです。
 そんなふうに「戦わない戦略」にたどりついたのです。

ここにまず解答の中心となることがありました。「ナンバー1になれるオンリー1のポジションを見つける」ということです。これだけではやや字数が足りませんので、これと同じ趣旨で補足となる内容を付け加えることで、より高得点が見込めます。

本文ではこの後、動物やスポーツの具体例が続きます。これは文章をわかりやすく、親しみやすくするためにあるもので筆者の意見ではありません。ここを軽く読み進めると、最終段落にたどりつきます。

 勉強は得意なことを探すことでもあります。苦手なことを無理してやる必要はありません。最後は、得意なところで勝負すればいいのです。しかし、得意なことを探すためには、すぐに苦手と決めて捨ててしまわないことが大切なのです。

論説文では筆者の主張が最終段落にまとめられることが多いのですが、これもその一例です。ここでは、とくに「しかし」の後に注目します。「すぐに苦手と決めて捨ててしまわずに、得意なことを探す」ことが大切なのです。

上記をまとめると、次のような解答となります。

苦手なことを苦手と決めつけずに得意なことを探し、ナンバー1になれるオンリー1のポジションを見つければよい。

令和三年度の中学入試問題から、二題を取りあげました。難関校の問題だからと言って、ひるむ必要はありません。設問にヒントがあり、文章中に答えがあるのです。それをどう探し出すか、その技術を磨いていくことが大切です。

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