●いろいろな方法がある語彙力の高め方
入試で必要とされる語彙力について、前回に引き続いて考えていくことにします。語彙力を増強する方法にはいろいろなものがあります。たとえば語彙力をつける教材を用い、着実に語彙を増やしていくやり方があります。これらの教材は、ことぼの種類別に体系化されていたり、難易度別に構成されていたりとそれぞれに工夫がほどこされています。受験までに時間的余裕のある段階では、このような学習法は効果が高いと考えます。どの教材を選んでもいいと思います。ただし、一冊を仕上げるということが大切です。一冊終えたら、次に進むということです。そういう意味では、私はうすめの一冊がいいかと思っています。一冊終えれば必ず力がついています。そして一冊仕上げたという達成感も味わえることでてしょう。途中であきてしまい、別の本に乗り換えるのは避けたいものです。
もちろん読書も、語彙力を高めるとても有効な方法です。正確には、読書が好きで本をよく読んでいるお子さんには、自然に語彙力が育っているといったほうがよいでしょう。低学年から本をよく読んでいるお子さんのなかには、むずかしい言葉の意味を、「なんとなくわかっていた」というお子さんが多いのです。もしもお子さんが読書が好きで、受験本番まで時間的余裕があるのならば、読書はとても有益です。
どのような本を読んでも、国語力の育成には役立ちます。そして語彙力は自然についてきます。ただし、読書を通して確実に語彙力を高めたいと考える場合は、留意が必要です。お子さんが好む読みもののなかには、楽しく気軽に読めるようにするために、あまり難しい言葉を使っていない作品も多くあります。語彙力を高めるという観点に限れば、これらの本はおすすめしません。保護者の方がお子さんに推薦するならば、お子さんには少し難しめのものを選ぶとよいでしょう。
●読解問題を語彙学習に活かす
様々な語彙の学習法がありますが、塾の読解テキストや試験、志望校の過去問を有効に活用することを、私はおすすめします。受験生の皆様はふだんは不自由なく日本語を使っています。ですから、生活に必要な語彙力はあるのです。よく「最近の子供は言葉を知らない。」ですとか、「うちの子は語彙力が足りない。」などとお聞きします。でも、大人の目から見れば、小学生の語彙数が少ないのは当たり前なのです。とりわけお子さんの語彙力が乏しいわけではありません。試験に必要な語彙力が足りないのということなのです。
塾の模試、過去問演習などで、語彙不足による失点が多いようでしたら、中学受験に出やすい語彙の学習が不十分だということです。さらに、中学受験に出やすい語彙はある程度決まっていますので、それに対応した学習が大切なわけです。模試や過去問には、当然のことながらこれから受験に出やすいことばが使われますし、設問にもなります。これらを集中して学ぶことはもっとも有効な語彙学習の一つであると、私は考えます。
問題演習において、語彙の問題が解けなかった場合は、必ず辞典でその意味を確かめ、知識として定着することが大切です。模試や過去問で取りあげられる言葉は、受験の必修語彙ですので、これは当然のことです。受験を控えた上級生ならば、これを一年間続けるだけでも、相当の力がつくはずです。
さて、語彙の問題は、単独の設問としてだけでなく、読解問題のなかでも多く問われます。
言葉は、語彙のテキストのなかではなく、実際の文章の中で生きています。もちろん、辞書的な意味で言葉をとらえるのをが優先するのは確かです。しかし、本文中の意味がどうなのかは、常に意識して問題に組まなければなりません。また、設問のことばの意味がどうしてもわからない場合、また、設問になっていなくともどうしてもわからないことばに出会った場合は、ことばの意味を文章の文脈から「類推」することも大切です。これから実際にいくつか入試問題をみていくことにします。
2021年度 栄光学園中学校 大問二より
問一 波線部a「閉口した」、b「おずおずと」の意味として最も適当なものを次の中から選び、それぞれ記号で答えなさい。
a「閉口した」
ア 疲れ果ててしまった
イ 飽き飽きしてしまった
ウ 怒りで心を閉ざした
エ あわれみの情がわいた
オ 困り果ててしまった
b「おずおずと」
ア ごく自然なふるまいで、さりげない様子
イ おそるおそる、ためらいながら行動する様子
ウ あわてず、ゆっくりと静かにふるまう様子
エ 気になることがあって、落ち着かない様子
オ 納得いかないことがあって、不満げな様子
正答はaがオ、bはイです。どちらも中学受験では必修レベルの語彙です。これは、もともとの意味の解答をそのまま選び、続いて前後の文脈から判断して違和感がなければ正答ということになります。ただし、これらはふだんの生活で小学生が使う場面はまれと思われることばです。試験やテキストで初めてこのようなことばに出会ったらとしたら、まずは、意味を類推する習慣をつけてください。類推する方法としては、文脈から判断する方法があります。
そのときに、上記の「閉口した」ならば、漢字の意味も合わせて考えてみることが大事です。「口を閉じて何も言えなくなる」ということです。ここで、このことばが文中でどのように使われているかを確認します。
「本当に大丈夫なの?お母さん、車で送ってあげようか。」
昨日から何度も同じことを繰り返す母親に、いい加減、朔も閉口した。
「~同じことを繰り返す母親に、いい加減~」から、母親の言動に困っていることは類推できることでしょう。このような過程ののち、辞書を引く、解答を確かめるなどの手順を踏むことで、ことばがわかる喜びを感じ取れるはずです。こうして身につけたことばは忘れないのです。当然、入試に必要な語彙力も向上することになります。
2019年度 駒場東邦中学校 問3
……線部A「物心がついてから」(3ページ)・B「舌を噛みそうな」(6ページ)とありますが、この言葉の本文中の意味として最もふさわしいものを次の中からそれぞれ選び、記号で答えなさい。
A「物心がついてから」(3ページ)
ア 経験を積んで人との付き合い方が分かってから
イ 世の中のことが何となく分かってきてから
ウ 勉強することで色々な知識が増えてきたから
エ 成長にともなって物へのこだわりが出てきたから
オ 自分の状況を冷静に判断できるようになってから
B「舌を噛みそうな」(6ページ)
ア 思い浮かべるだけでも不愉快な
イ なめらかに発言するのが困難な
ウ すっと頭に入って来ない
エ 強い驚きですぐには声が出ない
オ 言葉に出すのはためらわれる
正答はAがイ、Bもイです。
Aは物心ということばの意味(=世の中のことや人の心)を知らないとむずかしいかもしれません。学んできた知識が問われます。
Bは、……線部を含む一文の前後を読み、「舌を噛む」という動作を思い浮かべれば、比較的容易に答えられそうです。「舌を噛む」という慣用句を知らなくとも解答できたと思います。
ヨクジツ、夏は百花が住んでいた国のことを調べた。舌を噛みそうな名前の国名を、間違えずに言えるようになるまで、少し時間がかかった。
「百花たちは、難民なの?」
とはいえ、過去問演習などでこの問題に出会ったら、この慣用句は身につけておくるべきでしょう。語彙は多いほうがいいのは当然です。知らなくともいいという意味ではありません。
●読解問題で試される語彙力
さて、今回は読解問題の中にふくまれる語彙問題を取りあげました。語彙の問題を確実に解ければ得点源になります。読書、参考書、問題演習など様々な学習の仕方がありますが、常に語彙は単体で存在するのではなく、文章のなかにあるのだということ、文章のなかで生きているのだということを忘れずにいたいものです。実際に国語の入試問題でもっとも語彙力が必要とされるのは、語彙そのものを問う問題においてではなく、読解問題においてです。そもそもことばの意味がわからなかったり、類推できなかったりしたら、文章を読めるわけがありません。
今回取り上げた物語文にしろ、論説文にしろ、筆者が読者に伝えたいことがあるときは、同じような内容を何度も繰り返すことがあります。その時、同じ表現、同じことばを使うことはあまりありません。ことばや表現を変えて伝えている、言い換えているわけです。ですので、似た言葉が出てきたときには、同じ意味で使われているだろうと推測しながら読み進めることが大切です。このような読み方ですと、仮にわからないことばが出てきたとしても、文章を正確に読むことができるのです。たとえば、「練達」ということばがわからなったとしても、「上達」や「練習」と関係あるということを類推しながら読むことが大切なのです。
たとえば読解問題の選択肢問題では、本文の中のことばを選択肢では別のことばで言い換えている場合がとても多くあります。言い換えを意識して文章を読むことに慣れていれば、選択肢問題への対応もとても楽になります。国語の成績を上げていくには、漫然と文章を読むのではなく、「言い換え」などの重要ポイントを、常に意識して学ぶことが大切です。当ブログでも、折々で学び方を取りあげていく心づもりです。
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