●責任を伴う「自由な校風」

本校は1870年に設立されたキリスト教主義の学校で、とても長い歴史があります。中学受験においては女子校の最難関の一つに数えられています。2020年度には東京大学に33名が合格するなど、多くの生徒が難関大学に進んでいます。

自分の意見をきちんと持った、活発な個性を持った生徒が多い、活気のある学校という印象を私は持っています。実際に、「機会があればいうべきことは、はっきり伝えていく」姿勢を大事にした教育がされていると考えます。ホームページには次のように記されていました。

(「女子学院の教育」より抜粋)
女子学院には制服やこまかい校則がなく、生徒の自主性を尊重する明るく自由な校風が満ちあふれています。しかし、「主を畏れることは知恵の初め」という聖句が示すように、自由とは真理の前に立つ人間の敬虔を前提とし、真の自由は責任を伴います。他人の意見に左右されることなく、他者との違いを受け入れ、個性的な一人ひとりの生き方を創り出していく、それが女子学院なのです。

さて、「もし空き缶が落ちていたら…」というたとえ話がありますが、いわゆる女子御三家では、女子学院生は「その空き缶で缶蹴りを始める」と言われることがあります。これが本校の全てを言い当てているわけではないでしょうが、自由な校風や卒業生のキャリア志向、企業での目だった活躍などから、このようなことが言われるのだと思います。私は、大学時代の知り合いに何名か本校OGがいます。活発で自由で優秀なイメージを持ち続けています。

それでは、本題の入学試験研究に入ります。本校は4教科ともに試験時間は40分、配点はそれぞれ100点です。理社も100点満点ですから、国算同様に油断をするわけにいきませんし、相応の対策が必要です。また、40分で相当量の試験問題に解答しなければなりません。当然スピードが必要です。加えて確かな学力が求められます。特別な知識を求められるというよりも、得た知識を関連付けたり、掘り下げたりする力が求められるのです。

●暗記ではなく、知識を用いて解答する社会

今回は、社会から始めましょう。本校の入試問題には、細かい知識自体を求めるものはあまり出題されません。持っている知識と知識を関連させ、類推していく思考力が重要です。2019年度の入試問題の一部を見てみましょう。

(大問2)問6 1950年代の日本で「三種の神器」と呼ばれた電化製品のうち、白黒テレビ以外の2つが人々に余暇を楽しむゆとりを与えた理由を説明しなさい。

この年代の三種の神器が「白黒テレビ」「電気洗濯機」「電気冷蔵庫」であることは、必修の知識です。これがわかれば、ある程度想像力を使いながら、今まで洗濯板で衣類を洗っていた時間、氷を買ってきて食料を冷やす時間が短縮されることにより、時間に余裕ができるのではないかと考えることができます。したがって、「電気洗濯機と電気冷蔵庫によって、家事労働の時間が軽減されたから。」などが正解となります。

続いて、比較的解きにくいと思われがちな問題を取りあげます。

(大問1)問9 次の職業から、下線⑧(注:下線⑧は、「江戸では不要になったものが徹底して再利用されていました。」)の方法には3通りあったことがわかります。ア~カを2つずつ組にして3つのグループに分け、それぞれどのように再利用したか述べなさい。


ア 古着屋:古い着物を買い取り、洗ってから仕立て直して市内で売った。


イ 古傘買い:傘を買い取り、折れた傘をはずし、油紙は味噌や魚の包装紙として市内で売った。


ウ 灰買い:まきなどを燃やして出た灰を買い集め、農村で売った。


エ 焼継ぎ:欠けた陶器を、鉛ガラスの粉末を使って接着し、再び焼いて市内で売った。


オ 肥くみ:人の小便・大便をくみとって買い取り、農村で売った。


カ ほうき買い:古くなったほうきを買い取り、タワシなどにして市内で売った。

江戸時代のリサイクルは、生徒にとってはあまりなじみがないと考えられます。もちろん、それぞれの仕事の名前を予め知っている人はほとんどいませんし、知っている必要もありません。まずはどのようなものを扱っているのか、その使用される目的は何なのかに着目します。

それぞれの後半に注目すると、ウとオは、「農村で売った」とあります。また、この二つは、買い取ったものをそのまま利用していることがわかります。肥料として使われたと考えられます。残りはすべて市内で売っていますが、イとカは、買い取ったものを別のものに作り変えています。一方、アとエは、そのまま修理していることがわかります。おそらく誰も見たことのない問題ゆえに焦ってしまうことでしょう。しかし、冷静に筋道を立てて設問を読み進めて考察をすれば、確実に正答できる問題です。

<解答例>
(記号)ア・エ(説明)修理して同じ用途として再利用した。
(記号)イ・カ(説明)別の用途として作り変えて再利用した。
(記号)ウ・オ(説明)農村に持っていき肥料として再利用した。

本校の入試問題は、年度によって若干異なりますが、おおよそ70問が出題されます。これを解答時間で全て答えるのは至難の業です。まず基本的な問題を確実に正答すること、そのうえで思考力が求められる問題を出来得る限り解答していくことにより、合格点に到達できると考えます。

●正確に読む力に加え、表現する力が大切な国語

近年の本校の国語では、読解問題が2題出題されており、問題文の分量はおおよそ5,000字です(2020年度は、これに漢字の書き取りが4問加わっています)。これを40分で解くことになります。実際にはどのような問題が出題されているのかを、まず見ることにします。2018年度の大問1、論説文の問題から抜粋します。出典は、岡田美智雄『<弱いロボット>の思考 わたし・身体・コミュニケーション』です。

(問題文から一部を抜粋)
あるいはすこし先回りをしながら、床の上に無造作に置かれた紙袋を拾い上げ、部屋の片隅にある乱雑なテーブル類を束ねていたりする。これもロボットのためなのだ・・・・・・。
「あれれ?これでは④主客転倒(注:主客転倒に傍線)ということになってしまうではないか」と思いつつも、それはそれで許せてしまう。ロボットにお掃除をしてもらうのはうれしいけれど、ほんの少し手助けになれている感覚も捨てがたい。


問四 傍線④について
1 「主客転倒」の言葉の意味を次から選びなさい。
ア 主人と家来がともに失敗をしてしまうこと
イ 主人と客人の立場や軽重が逆になること
ウ 客観的なものの見方に偏ってしまうこと
エ 始めと終わりで主張が異なっていること


2 ここではどのようなことを言っているのか、わかりやすく説明しなさい。

1の問題、主客転倒とは、「大事にするべきものとそうでないものが、ぎゃくのあつかいを受けること。また、ものごとの立場や順番が逆になってしまうこと」の意味であり、これは正解できるはずです(解答はイ)。基本的な語彙の問題です。これができなければ2は必然的に解けないことになります。

2では、主客転倒の意味が、立場が主と従で逆になっていることだということをまず踏まえます。ここでは何と何がどのように逆になっているのかを確かめていきます。まず、傍線④主客転倒の含まれる一文を確認します。このように文の一部に傍線が引かれている時は、傍線以外の部分の確認が重要になります。この一文には、「これでは」とあります。この指示語は、「(人が)ロボットのために、床の上に無造作に置かれた紙袋を拾い上げ、部屋の片隅にある乱雑なテーブル類を束ねていたりすること」だということがわかります。 これが「主客転倒」だというわけです。

次の文では、「ロボットにお掃除をしてもらうのはうれしいけれど、ほんの少し手助けになれている感覚も捨てがたい。」とあります。これは、本来、人がロボットに掃除をさせるという関係なのに、ロボットの掃除を人が助けているという逆転関係のことを言っているわけです。なお、「手助けになれている関係も捨てがたい」とあるように、「それはそれで許せてしまう」のです。

ここまでわかれば、「人が掃除をする際の補助として、ロボットを使っている関係であったはずが、ロボットの掃除を人が手助ける関係に逆転しているということ。」などの解答が導き出されます。語彙力と読解力が問われますし、まとめたことを表現する記述力も必要です。ただし、手も足も出ないような難問ではありません。このような問題が主体です。

さて、前述の通り、試験時間40分で、おおよそ5,000字の問題文となると、特別の速読法や大量の問題演習が必要と思う方もいるかもしれません。このやり方はおすすめしません。時間内に全問に解答することを目指すのではなく、取り組んだ問題を確実に正解することが大切です。

問題文は、論説文や随筆文が中心です。基本的な正攻法の読解練習をすること、すなわち常に筆者のいいたいことや心情がどこにあるかを意識していくことが大切です。その際、具体と抽象に留意することです。いいたいことや心情はすべて抽象です。いいたいこと、心情に線を引いておくことが大切です。また、「主客転倒」のように、語彙力は養っておかなければなりません。まとめたことをわかりやすく表現する練習も必要です。このような地道な学習を繰り返すことで、本校の入試問題は解けるようになります。