●暗記学習からの脱却
受験生や保護者の方々から、「社会は暗記科目」だという声をしばしばお聞きします。社会=暗記科目、これは今に始まったことでなく、私が受験生の頃から言われていました。
ただし、今の入試問題は、覚えていればなんとか解けるわけではなくなっています。求められる知識量が増えたわけではありません。得た知識を理解し、関連づけることが求められているのです。丸暗記の学習から脱却して、正しく理解する学習への転換が求められています。「暗記」でなく、得た知識が何につながる知識なのかを意識した学習が大事です。
中学受験では、4年生から5年生の前半で地理、5年生の後半で歴史、6年生の前半で公民を学ぶケースが多いでしょうが、歴史を終えた頃には地理を忘れてしまっているなどの繰り返しになってしまうこともあります。暗記ではなく、知識を関連させて整理していくことを大事にしたいものです。今回は、公民を題材に、効果のあがる学び方、実際の入試問題について考えていきます。
●理解する学びの大切さ
公民でよく出題されるものに、「国会の仕事」、「内閣の仕事」があります。この仕事を暗記しようとすれば、小学生だけでなく、大人にとっても至難の業です。受験ではこれらの仕事を暗記しているかではなく、それぞれの役割を理解しているのかが問われます。ですから、国会と内閣の役割を正しく理解する学び方をすればいいのです。
まず、国会は「法律をつくる役割」をもっています。これが「立法権」です。国のきまりを最終的に決める権限があるということです。「方針を決める」役割ですね。大切な役割ですから、国会は国民の選んだ国会議員から成り立っているわけです。一方で、内閣には、国会の決めた法律に従って、実際に行政を進める権限があります。「方針に従い実行する」役割です。また、内閣は、法律案をつくって国会に提出ができるわけですから、「方針案をつくる役割」もあります(実際には、議員立法もあります)。
さて、法律についての、国会と内閣の仕事の流れがはっきりしました。
①内閣が案をつくる②国会が決める③内閣が実行する
これが理解できれば、国会や内閣の他の仕事である予算や外交も、同様に理解できることになります。
①内閣が予算案をつくる②国会が予算を議決する③内閣が予算を執行する
①内閣が条約の交渉をする②国会が条約の承認をする③内閣が条約を締結する
実際の入学試験ではそれぞれの役割を担うのはどこかとの問題がよく出題されますが、このような役割分担を理解しておけば、容易に解答ができます。一つ一つの丸暗記ではこうはいきません。なお、公民の学習は、地理や歴史に比べて抽象的だとの話もよく聞きます。例えば、「全国の小学校教室にエアコンを設置する法案」を自分で考え、それを例に学んでみるなどすると、具体的にイメージしやすいことでしょう。さて、続いていくつか、実際の入試問題を見てみましょう。丸暗記では対応できないことを今回は確認していきます。
●公民分野の入試問題例
はじめに、栄光学園中学の2018年度の問題を取りあげます。
問 次の文章の(A)~(D)に入る言葉をそれぞれ答えなさい。なお、順番は問いませんが、同じ言葉を答えてはいけません。
現在、神奈川県鎌倉市に住んでいる有権者の栄光太郎さんは、衆議院議員を選ぶ選挙と参議院議員を選ぶ選挙のほかに、(A)を選ぶ選挙、(B)を選ぶ選挙、(C)を選ぶ選挙、(D)を選ぶ選挙の選挙権が与えられています。
この問題は、決して難問ではありませんが、きちんと正確に答えることができるでしょうか。栄光学園の所在地は神奈川県鎌倉市です。この問題に答えられるくらいに知識を関連づけておくことが求められます。
答:A~D 神奈川県知事・神奈川県議会議員・鎌倉市長・鎌倉市議会議員
麻布中学では、あるテーマを掘り下げた長めのリード文からなる大問が一つ、例年出題されています。2020年度は、「衣服と社会の関係」について出題されました。そのなかの一問を取りあげます。
問11 これまで衣服や身につけるものについて当然だと考えられてきたことでも、近年疑問をもたれるようになっているものがあります。どのようなものがありますか。具体例をあげて説明しなさい。
これはリード文のなかから、下記の部分に気づけば難しい問題ではありません。
(リード文から抜粋)
体型に違いのない生まれたばかりの赤ん坊でさえも、男の子は男の子らしい衣服を着せられ、女の子は女の子らしい衣服を着せられます。こうしているうちに、男性はズボンを履きネクタイを締めることが男性らしいと思い、女性は化粧をしたりスカートを履いたりすることが女性らしいと考えるようになります。しかし、世界を見ると男性がスカートのような衣服を着るところもありますので、必ずしも当たり前のものではなさそうです。<解答例>女子がスラックスを選択できる学校があるように、スカートは女性のものという考え方。
リード文からポイントをつかむためには国語の力が必要ですし、ジェンダーフリーに関わる話題ですから、時事問題をおさえていくことも大切です。時事問題については、また改めて記す予定です。このように、暗記だけでは対応ができない問題が増えてきているのです。
最後に、2020年度の聖光学院中学の問題を取りあげます。
問 労働者が行う団体行動の具体的な方法の1つにサボタージュといって、意図的に作業能率を落とすものがあります。この単語が語源となっている、日常よく使われる言葉を答えなさい。
答:さぼる
この問題が解けるかどうかは別にしても、こういう問題を出題する学校もあることをご紹介しました。こういう問題があることは、決して悪いことではないと思います。私は、出題された方のセンスに敬意を持ちました。前々回のブログと合わせて、地理と公民の入試問題を取りあげました。次の機会には、歴史を扱います。